ヴァーレントゥーガはいかにメディアミックスの題材たるか 前編

 

こんにちは。

 

ヴァーレントゥーガというゲームという

戦略ゲームをご存知でしょうか。

 

正直その知名度は、

必ずしも高くない印象です。

 

ですが、その内容と派生作品については

量・質ともに充実しており、

驚かされます。

 

しかし、ここで主張したいメインは

上記のことではありません。

 

このヴァーレントゥーガの本体及び

派生作品、さらには

これらをとりまく環境が、

十分に特徴的であり

ゲーム・メディアを理解するための

格好のテーマになりうるのではないか、

というのがこの記事のテーマです。

 

自分が探す限り、対応する既存の記事や

査読論文もないようですので、

この記事を書くことにしました。

 

以下のような流れて進めていきます:

 

・ヴァーレントゥーガと可能そうなテーマ

・メディアミックスとヴァーレントゥーガ

 ・きのこたけのこ戦争・IFに見る多層ネットワーク

 ・マーケティングとの距離感

 ・多重に引用される設定・要素・世界観

・フォーマットとヴァーレントゥーガ(次回)

 ・多重平面による動きの見せ方(仮)

 ・パラレルに進行する時間軸(仮)

 ・ゲーム制作というゲーム外ゲーム(仮)

 

 ヴァーレントゥーガと可能そうなテーマ

 

改めて、ヴァーレントゥーガとは何か。

 

歴史的なりたちを割愛して端的に言えば、 

リアルタイムストラテジーのゲームです。

 

個々の戦術パートだけではなく、

ユニットの雇用や編成を行える

戦略パートのシークエンスがある点も

大きな魅力の1つです。

 

一方で、画像、音楽、キャラクター等、

基本的なシステム以外のほぼすべてを

編集できるため、

数々の派生作品を輩出する

ゲームエンジンのような立ち位置とも

言えます。

 

こうした作品群は、フリーゲームの DL 数で

頻繁にランクインしています。

 

さて、それでは、

ヴァーレントゥーガとその派生は

どのような点で非自明なのでしょうか。

 

まず第一に、

何重もの参照が行われていること。

 

具体的には・・・

ひとえに参照といっても、

様々なタイプの参照が混合されています。

 

派生作品同士のオマージュ。

キャラクターの参照もあれば、

世界観の参照もあります。

 

インターネット上の文脈の参照。

流行や風刺、人気のキャラクター。

そしてインターネット上では

暗黙の理解となるような文脈等です。

 

そしてメディア間の参照と、

登場人物の遍在化。

アニメ、ゲーム、小説、漫画等で、

特定のキャラクターが

メディア・作品をまたいでよく

登場しますが、この場合、

一人の人物が複数の異なる人生を

歩んでいることもよくあります。

 

これら3つの参照において、

ヴァーレントゥーガの特殊性が

発揮されます。

まずこれが、

非自明であると考えた点の一部です。

 

3つの参照のいずれを見ても、

既存の文脈の延長線上として

一定の市民権を得るポテンシャルが

あるように思います。

 

一方で、

ゲームの形式として、

すなわちフォーマット面も

着目に値するように思います。

 

事実上ゲームエンジンであるこの体系が、

制作環境やコミュニティを

どう構築したか。

何を促進したか。

 

あるいはゲームの形式として

どのようなリアリティを実現したか。

 

素人目線としては、

上記のどの現象を挙げてみても、

豊饒な事例や、

日本のゲーム動向への示唆があるような

そういう感覚を受けます。

 

 

 以下では、

主に『なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか』

(マーク・スタインバーグ 2015)

を特に参照しつつ、

上記3つが色濃く出ていると考えられる

『きのこたけのこ戦争・IF』を中心に

私のプレイ時間の長さという理由もあります

議論していきたいと思います。

 

 

メディアミックスとヴァーレントゥーガ

きのこたけのこ戦争「・IF」というゲームを

ご存じない方でも、

きのこたけのこ戦争自体は

耳にされているのではないでしょうか。

f:id:a16777216:20181008015037p:plain 出典:きのこたけのこ戦争・IF/KURINOMOTO

 

インターネット上で今も流行を続けている

このきのこ・たけのこに関する現象。

 

皆が物語を想像するための

共有された世界観ないしソースといっても

過言ではないのではないでしょうか。

 

ここにおいて

「きのこたけのこ戦争・IF」は、

名前通りこれをテーマにしたゲームですが、

単に一発ネタで終わらせることなく、

徹底した書き込みをし、

ゲームとしても長く楽しめる設計をした点で、

考察対象としての

もちろん、遊ぶべきゲームとしても

強い優位性があると考えます。

 

ざっと特徴を列挙すると、

 

どうもプロの方も関わっているらしい

本気の顔グラフィック。

 

おふざけと、硬派な歴史フィクションを

巧みに混ぜたスクリプト

 

プレイ開始時に、きのたけではなく

実に 25 の国家から

自分が操作する勢力を選択でき、

そのすべてにストーリーが用意されていること。

 

このゲームの詳しい魅力については

例えば以下の記事などが詳しいです。

greyhoundgameplay.blogspot.com

 

さて、ここまで書いたところで、

インターネット上の文脈を盛り込みつつ

ゲームという媒体で展開される、

メディアミックスの一側面を

予感頂けたのではないかと思います。

 

プレイするうえでのゲームの特徴紹介は

この辺りで終わりにし、

どのような考察の余地があるかの話題に

入っていきたいと思います。

 

ここで、先を急がずに、

一度メディアミックスとは何か?を

確認したいと思います。

 

早速、マーク・スタインバーグさんの

書籍を引いてみると、

「トランス・メディアミックス」として

説明している、下記の記述が、

素朴な直観に近いように思います。

トランス・メディアミックスについて語られる場合は大体、以下の二つの交差する現象を取り上げることが多い。

①ある一つの作品やキャラクター、物語世界を他の様々なメディアやプラットフォームへ翻訳し展開すること(再目的化ともいう)。

②複数のメディアによる相乗効果を用いて、同じグループ内の他の作品を販売しようとすること。 

 

(※トランス・メディアミックスという語は、

 1960年代から有ったマーケティング・メディアミックスに対し

 1970年代以降の流れを指す用語として用いられています。

 特定の目的商品に向けて直線的に別のメディアへと展開するのではなく、

 複数の商品(あるいは相乗作用そのもの)を目的として

 横並び的に多メディアに展開する手法であるとしています。

 

 

さらに、特に1980年代以降のモデルについては

「トランス・メディアミックス」という用語と

 この1980年代以降とのモデルの関係については、

明記を見つけることが出来ませんでしたが、

以下のような図式で説明されます。

世界観→マンガ/アニメ/ゲーム等々

(太字は原文より)

 

これは

「マルチソース・マルチユース」という語と

ほぼ同義に使われています。

 

これ以前のモデルでは、最初に原作ありきで、

それが直線的に複数のメディアに

翻訳されていくものだったそうです。

 

これに対し1980年代以降、

メディアオフィスというチームが生んだ

手法は、

単一の原作ではなく世界観を中心とし、

ユーザーは各々の媒体を通じて

世界観にアクセスする、

このような図式になったようです。

 

ここでは分かりやすい例として

ビックリマンが挙げられています。

 

1つ1つのシールでは物語が断片的だが、

それらを寄せ集めることで

1つの体系的な物語・世界観が浮き上がる、

ということが指摘されています。

ただし、2000年代以降には、この流れを継承しつつも、

 世界観よりもキャラクターを中心とするなど、

 1980年代のモデルとはいくつか異なる点が生じます。

 同書においてマルチソースに対する否定は明記されていませんが、

 以下で記す分析についても、一定の留保は必要そうです。

 

きのこたけのこ戦争・IFに見る多層ネットワーク

さて、こうした定義を踏まえて、

具体的に見ていきます。

 

きのこたけのこ戦争・IFにおいては、

ここまで引用してきた著者である

マーク・スタインバーグさんの想定を超えた

さらに強いマルチソース・マルチユースが

行なわれているように思います。

 

典型的な例として、

勢力「コイケンデレヤ旅団」に沿って

具体的に見ていきましょう。

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 たとえばこの勢力の宿将の二人、

カラムーとスパムーは、

お菓子と史実による2重の参照があります。

 

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f:id:a16777216:20181010013433p:plain

 

きのこたけのこ戦争・IF wikiによれば、

カラムーはアン・ボニー、

スパムーはメアリ・リードを

それぞれモデルにしているとあります。

 

このモデルとなった二人の女海賊は、

同じ時代を生き、

奇しくも出会うことになり、

親密な関係になったと言われています。

 

さらにこちらのセーベイカに至っては

4重の重ね合わせがあります。

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wiki によれば、

・いかせんべい(メーカーは不明)、

・アニメの人物であるイカ娘、

・伝承上の人物であるフライング・ダッチマン号船長、

・さらにそれを参照するデイヴィ・ジョーンズ

 

このような様々なソースが

属性・性格の参考にされ、

混ぜ合わされることで、

特徴的なキャラクターが生み出されて

います。

 

キャラクターがメディアを超えて

拡散している点では、

端的にメディアミックスの特徴を

踏まえた現象と言えます。

 

一方でこのゲーム特有の現象として、

複数のメディアからの参照を前提として

キャラクターないし

キャラクター間の関係が再合成される点が、

指摘できるでしょう。

 

あるいは、少し飛躍かもしれませんが、

この現象を、『菊とポケモン』になぞらえて

「どんな結合や交配やも制限なくありうる」

日本のファンタジーの現れと理解し、

アニミズムの系譜として考察することも

可能かもしれません。

 

ところで、モチーフが「きのこ」「たけのこ」という、

 自生する生物である点も興味深いです。

 作り上げるべき目標に対応する〈本質存在〉と

 作り上げられた事物に対応する〈事実存在〉とを

 ごく最近まで長い間二分してきた西洋の伝統を免れ、

 「存在」を自ずと成るものとして理解してきた東洋の感覚を、

 象徴しているようにも見えます。

 

多重に特徴が参照される効果は、

以上で見てきた通り、

キャラの設定・外見・テキストといった

ゲームの外装(≒フィクション)に

現れていましたが、

一方で、この効果は、

ゲーム内の変数・実装(≒ルール)にも

現れてきます。

 

例えばカラムーは、

カラムーチョの辛さを象徴する

炎の魔法を使用できます。

これと同時に彼女は、

銃の名手であったアン・ボニーにならい

特有の銃の技をも取得できます。

 

セーベイカは、

海上移動の他、

アンデッドの召喚が可能になっています。

 

さて、ここまでのところで、

個々のキャラクターという

ミクロなスケールで、

ルール面・フィクション面双方に 

特徴が表れている点を見てきました。

 

対して、こうした多重の参照による効果は、

キャラクター間の関係、

さらには世界全体の勢力図にも

立ち現れてきます。

 

まず、先ほど挙げたカラムーとスパムーは

関連するお菓子を参照するだけでなく、

史実上で親密だった二人を参照していた点を

思い出してください。

 

言ってみれば

関係の多重ネットワークになっており、

このような関係がゲーム中に見られます。

 

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このポリンク三兄弟は、

ポリンキーの3人の関係と同時に

黒い三連星の間柄も参照しており、

お菓子とアニメの

2重ネットワークを形成します。

 

文献調査が追い付いていないため

ここでは詳しく記載しませんが、

お菓子・アニメ・史実の

3重ネットワークを形成する

キャラクター間の関係も、

よく見うけられます。

 

東京の地理もゲームのモデルになっており、

これが影響している場合もあります。

 

 

さらにここから、

ゲーム世界全体のスケールについて

考えていきましょう。

 

まずテキスト面。

 

ここまで例を挙げてきた

コイケンデレヤ旅団は、

カリブ海の海賊バッカニアが

独自の民主的なルールを持っていたことこと、

これを反映したストーリーを展開します。

 

さらに、列強二国にはさまれた

スーギ・ノウコ自治区という勢力は、

下記記事にまとめられたストーリーと

歴史上の出来事とを巧みに合成し、

作品きってのシリアスなポジションを

担う勢力になっています。

dic.nicovideo.jp

 

さらに、スーギ・ノウコ自治区をとりまく

各国の対応こそが

開戦の火蓋を切って落としており、

断片的なお菓子派閥間の対立が、

ここで挙げた以外にも、各国間に無数の因縁あるいは協力関係があります

全体のシナリオへも昇華しています。

 

まさに、前章で図式を確認したような、

断片的な物語から全体の世界観への昇華が

ここにおいてはっきりと見られます。

 

もちろんこのような

国家・世界規模の参照は、

テキストだけにはとどまりません。

 

グリ公国という勢力では、

恐らくグリコのパッケージのアスリートと

ポッキーの形状とを反映してか、

投槍兵をメインの兵科として使います。

 

主人公的勢力の1つである

ハゥンマー民族代表院は、

キノの旅を参照しているためか、

バイクに乗った竜騎兵が登場します。

 

固有の武器や戦術の描画、さらに

その戦術間の相性が、

国家間の筋書き上の演出を彩りつつも

ゲームバランスを調停し、

全体の秩序を構成しています。

 

このような集団的な動きは、

『アニメ・マシーン』に倣い、

ドゥルーズガタリ

『機械』という言葉で表現しても

良いかもしれません。

 

きのこたけのこ戦争という

世界観を中心に据えている点や、

断片的な要素を多数集めることで

世界観全体を構成する点、

さらにそうした要素が

参照可能な文脈として複数メディアに

分散して埋め込まれている点では、

メディアミックスの特質をよく現した

理想の事例の一つかと思います。

 

これと同時に、 

その参照可能な多数の文脈が、

 

別々の多数の作品に由来しており、

それを多重に重ね合わせているという

このゲーム独自の性質も見られます。

「マルチソース」という性質を

共有しつつも、これをより

強固な形で進めることで、

新しい効果を生んでいると思われます。

 

メディアミックスによく当てはまる点と

強固が故にはみだしてしまう点、

この双方において、

メディアミックスを理解する上での

事例としての意義があると思います。

 

マーケティングとの距離感

ここでもう一つ、

気を付ければならないことがあります。

 

上で引用したマーク・スタインバーグの

メディアミックスの定義は、

販促が目的であることも

含んでいました。

 

ところが、ここまで挙げてきた

ヴァーレントゥーガとその派生は、

あくまでフリーゲームであり、

本質的に販促を目的としません。

 

この点が、この記事における

課題の一つだと考えています。

 

しかし一方で、ここまで挙げた内容は、

マーケティングと無縁とは言い切れません。

さらには、

ここにも幾つかのテーマが

潜在しているものと考えています。

 

これはなぜか。

以下の二つの観点から、

答えを記していきます。

 

まず1つめ。

きのこたけのこ戦争という現象についてです。

 

やはり(奇しくも)

マーク・スタインバーグさんの

著書の内容ですが、

明治製菓さんは戦後の早い段階から

キャラクターを用いた販促を

実施してきたことが分かります。

 

きのこたけのこ戦争というブームが

ユーザーによって強まったのか、

明治製菓さんの力によって

進められてきたのかはさておき。

 

現在実際に、明治製菓さんによって、

この現象が販促に活用されていることは、

明らかと言えます。

 

歴史的にお菓子は、

キャラクターと組み合わせられることで

販売と、概念の拡散とが促進されてきており

今でも継続されているということです。

 

さらに、

TV、新聞、動画投稿サイト、SNS等の

多メディアにおいて展開し、

広告自体もメディアとして機能しており、

なおかつユーザーのコンテンツ生成をも

巻き込んでいる点で、

メディアミックスの近年の動向を

踏襲しているものとも言えるでしょう。

 

この観点から振り返ることにより、

きのこたけのこ戦争・IF が

この販促とどう相互作用し、

どのようなミームを運び込んだか等、

本来のメディアミックスの定義に立ち返った

議論ができるように思います。

 

我々がお菓子メーカー各社さんのイメージを

どのように捉えているのか、

テキスト分析を実施することも出来そうです。

 

欲を言えば、

きのこたけのこ戦争・IFを遊んだかたが

プレイ時に受けたお菓子の印象や

アニメからの引用をどう評価しているか、

プレイ後のお菓子の購買行動について

量的・質的調査までできれば完璧ですが

これは流石に難しいでしょうか・・・?

 

 

※ 2019/02/06 追記

2019年になってから下記のような記事が

出ています。

 

これを確認することで、

2018 年の明治製菓さんのキャンペーンの

情報がもう少し得られそうです。

markezine.jp

 

たとえば、

きのこたけのこ戦争という枠組みは、

(発端はともかく)

ユーザーが話題にし続けている点が

主張がなされています。

「きのこたけのこ論争」なるものがTwitterなどを中心に双方のファンによって繰り広げられ、度々話題となってきた。

 明治はこれを受け、2018年2月末から7月末までの期間「きのこの山たけのこの里 国民総選挙 2018」キャンペーンを実施した。

また、以下のように、作り手と受け手の

共創によってコンテンツが作られる点が

意識されていたようでもあります。

「メーカーの言いたいことを、メーカー都合の言葉とタイミングで伝える一方的な方法ではなく、ファンと常につながりを持ちながら絆を強固にしていくやり方を模索していました」(酒見氏)

(太字は原文ママ

 

さらに読んでいくと、

キャラクターを人のように見せたり、

実在人物を1党員に見せたりするなど

選挙という完結した枠組みを

丹念に再現している様子が分かります。

 

まとめますと、

ある1つの世界観構築のために、

お菓子を含めた多メディアにより

リアリティが作られている点。

そして、

まるでマル勝ファミコンにように

ユーザー参加型のインタラクティブ

メディアになっている点。

 

これら2点で、私たちが見てきた

ヴァーレントゥーガとその派生における

メディアミックスとの共通点が

理解されます。

 

広告とコンテンツとの相互作用からは

まだまだ学べる点がありそうですね。

 

※ ↑ 追記ここまで

 

また、販促についての

もう1つの観点です。

 

上述のきのこたけのこ戦争・IFの

スタッフのかたを迎えて、

幼女戦記で知られるカルロ・ゼンさんが

シナリオを担当されたゲーム

「銃魔のレザネーション」があります。

 

これは KADOKAWA ブランドの1つ

エンターブレインから

書籍化がなされています。

 

ゲームについては例えば下記の記事が

詳しいです。

forest.watch.impress.co.jp

 

フリーゲームが、

販促の一部として取り込まれている点は

評価が分かれると思います。

 

しかし少なくとも、

現象として興味深い点が

多分に含まれています。

 

ここではフリーゲーム

販促のためのメディアの1として

認識されているであろう点。

 

派生作品間での設定や通例の参照という

(これは後述します)

フリーゲームに固有と思しき

素材の柔軟な参照関係が、

商業作品にも間接的に影響した点。

 

そして、

アニメ・小説等をソースとして

ヴァーレントゥーガ全体への

多様な参照があっただけではなく、

ヴァーレントゥーガをソースとして

少なくとも小説への逆輸入が

明示的に示されている点。

 

これらどの観点にせよ、

ヴァーレントゥーガを含む

フリーゲーム制作コミュニティが、

商業作品を含むコンテンツ空間全体の中で、

想像力を提供する機関として

(どのように)機能しているかを

検討する余地があります。

 

少なくとも CiNii や Google Scholar

ヴァーレントゥーガが1件もヒットしない事態は

解消されなければならない気持ちです・・・。 

CiNii Articles 検索 -  ヴァーレントゥーガ

 

また、商業の観点から言えば、

Lost Technology という作品が

Steam における有料配信においても

2018年10月時点で「非常に好評」と

受容されている点も、

見逃せません。

store.steampowered.com

 

多重に引用される設定・要素・世界観

最後に、

メディアミックスの大きな特徴である

キャラクターの拡散が、

ヴァーレントゥーガの作品間において

どのような動きを示しているかを

考えたいと思います。

 

作品間の引用関係について、

ゲームコミュニティの側面は後半に譲るとし、

ここではキャラクターや世界観に着目します。

 

再びマーク・スタインバーグさんの

書籍に基づいていきます。

 

キャラクターの拡散は、

1960年代からお菓子を媒体として

生じていた現象とされています。

ただし、

これに加えて2000年代以降、

様々なメディアに同一人物が登場し、

大枠の設定を共有しながらも

時には別の時間軸を歩むこともする、

キャラクターが世界観を牽引する手法として

再定義されているようです。

 

ヴァーレントゥーガの派生作品においては

メディアを跨ぐことこそ少ないです。

が、

同一の、あるいは一部のみ共通点を持った

キャラクターが、

別々の作品で別々の役割を果たしていきます。

これは2000年代以降の流れに近いでしょう。

 

典型的には、

オリジナルシナリオから

旧ナチガリア戦記へと引用された

オルジンというキャラクター。

 

あるいは、

前述のきのこたけのこ戦争・IFで、

光の目のキャラクターを

大勢参入させることができる MOD 。

 

さて、さらに、こうしたこと以上に

ヴァーレントゥーガ特有と言えるのが、

キャラクターの顔や特徴、役割、

必殺技、あるいは縮小されたドット絵のみが

作品間を跨いで登場する現象です。

 

まずグラフィックについて。

 

推察するに、

もともとフリー素材を集めて制作する、

あるいは、素材のみを提供する作者のかたが

協力する形でプロジェクトが始まったのか、

同一の顔グラフィックの人物が

よく別々の作品に共通して登場します。

 

典型的には、「JUNKIE Junk Shop」や

Xaos Mir」といったサイトからの

使用があります。

 

例えば、

旧ナチガリア戦記のキーディス、

光の目 旧 Ver. のバイルシュタイン、

むなしい努力 旧 Ver. のセルシウス

同じ顔グラフィックから生まれており、

どの人物も勢力のマスターや宿将など

 重要な役割にいます。

 

儚げながらも少し冷淡な見た目から、

それを表すような人物像やイベントの

描写が見られます。

 

少し寛容に考えるならば、

別々の人生を歩むキャラクターの

1として考えることが可能でしょう。

 

光の目でもむなしい努力でも、現在、

顔グラフィックはオリジナルの画像に

リメイクされていますが、

元の絵が想像力の源泉となり

そのキャラクターが出来上がったという

可能性が残ります。

 

そうであれば、

もとは1つのキャラクターが

それぞれの作品の制作に貢献したという

捉え方が可能でしょう。

 

続いてシステム面です。

 

フリーゲームであるがゆえに、

攻撃技や特殊効果に関する「スクリプト」、

すなわち実装においても、

互いに参考にしやすい作りに

なっています。

 

このため、

類似の固有技や必殺技を持つ人物が、

作品をまたいで登場し、

戦術における同じ役割を務めるといった形で

拡散されていると推測できます。

 

物語上の典型的な役割のうち

 特に何に相当するか?(「メンター」か?)

など、物語論上のポジションについても

分析できるかもしれません。 

 

さて、グラフィックとシステムを通じて、

個々のキャラクターのスケールを

見てきました。

 

さらに、この章でも、

よりスケールを挙げて

ゲームの世界観のレベルも

考えていきましょう。

 

音楽や色調、ゲームバランス、

これらを含むゲームのテーマ。

ここでは分かりやすさのため仮にテーマという語を用います。

 例えば『ハーフリアル』では「虚構世界」という語が

 近い意味として使われていますね。

 

テーマ設定についてもやはり

各派生作品が、

尊敬も込めてよく参照されているようです。

 

悲劇か喜劇か。

豪勢か穏やかか。

歴史のパロディなのか否か。

ファンタジーの割合はいかほどか。

心なしか、

 バランスがパワーインフレであるかどうかと

 全体の雰囲気が豪勢であるかどうかには

 相関がありそうに感じます。

 「ルール」と「フィクション」の組を考えるうえで

 これも興味深い現象ですね。

 

これらのテイストの好みに応じて、

後継作品とも呼べる作品の数々も

現れてきているように思えます。

 

ここまで見てきたように、すでに、

きのこたけのこ戦争・IFは

光の目の、

銃魔のレザネーションは

Lost Technology ときのこたけのこ戦争・IFの

後継作品と理解できます。

推測するにきのこたけのこ戦争・IFは、

 円形に近いワールドマップや軽快な音楽、

 ビビッドな色調、東方戦線におけるロボット兵の活躍などは

 旧ナチガリア戦記の影響も受けているようにも見えますね。

 

これに加えてさらなる、

光の目チルドレン、

NGTチルドレン、

きのたけチルドレン、

はるべりチルドレンと称して差し支えないような

それぞれのテーマを受け継いだ作品が、

続々と生まれているように目されます。

NGTはむなしい努力、はるべりはハルスベリヤ叙事詩、特に2のことを指します。

 

数作品をまたいで世界観が伝播されゆくこと。

数々の作品が相互作用しつつも

全体として固有の体系や方向性を

醸成していること。

 

これらの現象に見るにヴァーレントゥーガは、

媒体という意味においてもまた、

「メディア」の1つとして機能しているのでは

ないでしょうか。

 

まとめ 

どのようにヴァーレントゥーガが

「メディアミックス」であり、

どのような点が非自明だったかを

「in」「販促」「out」の3つの観点から

振り返ります。

 

情報の「in」としては、

アニメや映画、ネット上の現象など

多種類のメディアからのキャラクターの

(個々の特徴の)流入がありました。

 

つまり、

従来のメディアミックスの特性である

媒体をまたいだキャラクターの伝播が

強い強度で見られました。

 

特に、 

複数のメディアにまたがる情報から

世界観が構成されている点では、

メディアミックスの近年の傾向をも

きれいに踏襲しているものと目されます。

 

加えて、ソースとなるテキストが

ユーザー主体によっても醸成された点は

ニコ百のきのこたけのこ戦争を思い出してください)、

より直近の流れと符合します。 

 

ここで、

複数メディアにまたがる「マルチソース」は

マーク・スタインバーグさんが意図した

「マルチソース」の意味を超えて、

より強固かつヴァーレントゥーガ特有の形で

現出したものと考えられます。

 

このようにヴァーレントゥーガは、

メディアミックスの特性を

(ときには先を行き過ぎた形で)

あらわにする一方、

フリーゲームであるために当然ながら、

メディアミックスの重要な特性の1つ

「販促」の意図は持ちません。

 

この意味では、従来の意味の

メディアミックスから、

若干逸れてしまいます。

 

しかし、他でもないKADOKAWAさんが

販促の1メディアとして

ヴァーレントゥーガを射程に入れていること。

 

また、これまた他でもない明治製菓さんが

きのこたけのこ戦争・「IF」への言及の有無は明らかにできていませんが、

販促に同じソースの世界観を活用していること。

 

これらの事実から、

販促と一定の距離は置きながらも、

ある種の関係を持つ位置取りにあることが

理解できます。

 

無料のコンテンツを含むメディアミックスの例が

仮にヴァーレントゥーガだけではないにせよ、

既存の販売戦略を相対化する事例として

着目に値するでしょう。

 

また、

お菓子を媒体として醸成されてきた、

商品とキャラクターが行き来するという

日本のメディアミックスの歴史的経緯、

この系譜を踏まえて考察する余地もまた

あるでしょう。

  

最後に、このような豊饒な「in」および

「販促」をも取り巻く土壌を持った

ヴァーレントゥーガの派生作品群が、

どのような「out」を形成したのか。

 

当然ながらメディアの種類は、いずれも同じく

戦略シミュレーションゲームであり、

この枠を出ることは(幾つかの例外を除くと)

ありません。

 

しかし、

同じキャラクターが別々の時空で

ときにはお互いに矛盾する経験をする

(「共可能性」を満たさない)、

このように分岐した out が生じる点で

やはりメディアミックスを踏襲します。

 

 

加えて、

親作品が何であるかに応じて分岐しつつも

ヴァーレントゥーガではこういう作品を作る、

といった流れが形成されていること。

 

続きの記事でもより詳しく書く予定ですが、

こうした動きは、

ヴァーレントゥーガと派生作品が

作品群全体としてのメッセージ、

あるいはその文化を、

オンライン上に出力していると

見ることもできるでしょう。

 

そうだとすれば、

字義通り媒介するものとしての

メディアとしての意義もまた、

改めて問うことができるでしょう。

 

国際的なゲームの動向、

あるいはメディアミックスの動向を

相対化して捉えうるような

日本のゲームの特徴的な事例として、

より議論が進んでいくことを

願っています。

 

さいわい、

きのこたけのこ戦争・IFは英語版も

リリースされており、

実際に遊ぶことを通じた体験として

国際的に需要されるポテンシャルが

ありますからね。

www.moguragames.com

 

それでは、 

ここまで読んでいただき、

ありがとうございました。

 

今後の課題

 今回書き切れず、

いくつかは後編で書きたい内容を

最後に列挙したいと思います。

 

新しいテーマの可能性としては:

 

・なぜパイ投擲の爆発を受け入れられるのか?

・ヴァーレントゥーガでの時間の進行は?

 (リアリティの問題)

 

・ヴァーレントゥーガは歴史シミュレーションか?

 (フォルム論の問題)

 

・クォータービューは何を表現するか?

・なぜ止め絵が動きを伴って見えるのか?

 (メディアの特性の問題)

 

・プレイヤーが制作者でもあることは何を示すのか?

 (プラットフォームの問題)

 

著作権法は整備されるべきか、変わらないべきか?

・インターネットは自由を取り戻せるか?

 (所有者の問題)

 

・素材が人や作品をどのように結びつけるか?

・ユーザーの感想との相互作用はどうか?

 (コミュニティの問題)

 

 

また、今回十分に精査できていないために

より検証しなければならない点として:

 

・このような創作コミュニティとゲームエンジン

 他に存在するか。

 

フリーゲームであることの特異性は何か。

 

・日本の系譜と言える範囲はどこまでか。

 

といった点が挙げられます。

 

まだまだここに記載したほかにも、

ネガティブにもポジティブにも

多くの課題が残されていると思います。

 

そのいくつかは次回また

お見せ出来ればと思います。

 

参考文献

 

書籍(本文)

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川E-PUB選書)

なぜ日本は〈メディアミックスする国〉なのか (角川E-PUB選書)

 

 

 

菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力

菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力

 

 ※文中の引用に加えて、まとめにおけるモノとキャラクターの関係性について。

 

ハイデガーの思想 (岩波新書)

ハイデガーの思想 (岩波新書)

 

 ※2種類の存在の定義と、これを区別しなかったとされる日本の自然観について。

 

ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム

ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム

 

 ※「ルール」と「フィクション」の区別について。

 

アニメ・マシーン -グローバル・メディアとしての日本アニメーション-

アニメ・マシーン -グローバル・メディアとしての日本アニメーション-

 

 ※文中の引用に加えて、
 止め絵やクォータービューについて今後の課題でも参考にしております。

 

ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義

ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義

 

銃魔大戦 怠謀連理

銃魔大戦 怠謀連理

 

 

物語論 基礎と応用 (講談社選書メチエ)

物語論 基礎と応用 (講談社選書メチエ)

 

 

おもしろいゲームシナリオの作り方 ―41の人気ゲームに学ぶ企画構成テクニック (GAME|DEV|LAB)

おもしろいゲームシナリオの作り方 ―41の人気ゲームに学ぶ企画構成テクニック (GAME|DEV|LAB)

 

 ※物語のフォーマットの1つ「ヒーローズ・ジャーニー」について。

 

ポスト情報メディア論 (シリーズメディアの未来 11)

ポスト情報メディア論 (シリーズメディアの未来 11)

 

 ※「メディア」とは何かについて全体的に。

 今後の課題の切り口においても、コミュニティの問題をはじめ、

 多岐に渡り参考にしております。

 

書籍(今後の課題 )

 ※リアリティ(特に時間の進行)について。

 

 ※リアリティについて。

 

メディア・コンテンツ論 (シリーズ メディアの未来)

メディア・コンテンツ論 (シリーズ メディアの未来)

 

 ※フォルム論について。

 

 

 ※プラットフォームについて。

 

インターネットは自由を奪う――〈無料〉という落とし穴

インターネットは自由を奪う――〈無料〉という落とし穴

 

 ※所有者の問題について。

 

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?

 

  ※所有者の問題について。

 

 

オンライン・ゲーム

www28.atwiki.jp

最終アクセス:2018/10/25

※特に、「ヴァーレントゥーガ」本家および、

 「光の目」「むなしい努力」「(旧)ナチガリア戦記」について。

 

 

greyhoundgameplay.blogspot.com

最終アクセス:2018/10/21

  

 

KURINOMOTO

最終アクセス:2018/10/24

※きのこたけのこ戦争・IFの制作者さん。

 

kinotakeif.wiki.fc2.com

最終アクセス:2018/10/26

※特に、キャラクターの元ネタ考証について。

 

dic.nicovideo.jp

最終アクセス:2019/02/06

 

www.meiji.co.jp

最終アクセス:2018/10/21

 

markezine.jp

最終アクセス:2019/02/06

 

forest.watch.impress.co.jp

最終アクセス:2018/10/24

 

ch.nicovideo.jp

最終アクセス:2018/10/21

 

store.steampowered.com

最終アクセス:2018/10/21

 

 

LostTechnology Official Website

最終アクセス:2018/10/24

 

 

JUNKIE Junk Shop

最終アクセス:2018/10/21

 

 

Xaos Mir

最終アクセス:2018/10/21

 

 

天涯八潮路結社

最終アクセス:2018/10/24

※ハルスベリヤ叙事詩2の制作者さん。

 

 

mondaigaikoushuki.g1.xrea.com

最終アクセス:2018/10/25

※ 後継作品の話題について。

 本家 Wiki のサイドバーからもリンクのある、代表的な後継作の例です。

 

www.moguragames.com

 最終アクセス:2018/10/25

 

 

映像作品

 

「侵略!?イカ娘」

www.ika-musume.com

 

パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト

 ※特設サイトにあたるものが確認できなかったため、

 タイトルのみの記載になります。

 

 

キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series

www.kinonotabi-anime.com