音楽の形式、その刷新を体感する NO GIRL NO CRY レポート

 

こんにちは。センケイです。

 

先日 2019/05/19 日曜日に参戦した

NO GIRL NO CRY。

Poppin'Party と SILENT SIREN による対バンの

二日目の公演。

 

個人的には、少し大げさかもしれませんが、

単に最高の満足を得ただけでなく、

ある意味では

歴史的瞬間に立ち会ったのではないか、と

そう思わされました。

 

その感覚の由来は恐らく、

音楽やライブという形式、

いかにその形式の更新に挑んでいく

その試みから来たのではないかと考えています。

 

さらに、ライブ後に間髪を入れず発表された

ROCK IN JAPAN FESTIVAL への出場決定は、

いっそうこの、アニメとバンドとを融和させる

形式への挑戦といったものを感じさせます。

 

音楽の形式について詳しく踏み込んだ本、

音楽の哲学入門』をそばに置きつつ、

感想と考察とを、それぞれ

楽しみながら書いていきたいと思います。

 

それでは参りましょう。

 

アニメと音楽、奏者と聴衆を架橋する RAISE A SUILEN

身体が生み出していく場

オープニングアクトを務めたのは

RAISE A SUILEN 。

 

わずか4曲の中に、

相当なパフォーマンスの見どころや、

それと情報量が詰まっていました。

熱のこもった素晴らしい演奏です。

 

その密度ゆえに、

なかなか言葉での描写が難しいのですが、

簡潔に言おうとしたとき、

ANIME Bros.#3』における小原莉子さんの

インタビューが助けになりそうです。

若さと活発さはキーボード(倉知玲鳳)と DJ(紡木吏佐)の2人がテンションを作ってくれますし、アーティスト経験豊富な Raychell さん(Ba&Vo)と夏芽さん(Dr)は足りない経験を補ってくれるので、実はすごく良いバランスだったんだなと思います。

かくいう小原莉子さんもバンド経験があり、*1

全身を動かすパフォーマンスに

目と心を奪われます。

 

わずかながらドラムをやっていた自分としては、

特についつい夏芽さんに惹き付けられます。

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出典:BanG Dream! 2nd Season 10話/©BanG Dream! Project

2期10話において大和麻弥が

「凄すぎてみんな付いていけなくて」と、

役である佐藤ますきを褒めちぎりますが、

この表現から期待できていたものを

さらに上回る名演です。

 

メンバーが大きく体を動かして演奏する

ダイナミックなパフォーマンス。

そして思わず体が踊りたくなるような

楽曲の数々。

 

音楽心理学入門』が、音楽を構成する

要素の集まりについて下記のように述べる、

身体性を見事に表していました。

この動的な構造体こそが、作曲者と演奏者、聴衆をつなぐコミュニケーションの基礎となるものであり、その知覚を可能にするものは、音楽とともに動いたり歌ったりすることで形成される運動感覚である。

(太字は原文ママ。)

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出典:BanG Dream! 2nd Season 10話/©BanG Dream! Project
動きながらの演奏、見ごたえのあるパフォーマンスです。

動く演奏者と動く聴衆。

そのこと自体がコミュニケーションである、と。

よく言われることですが、

まさに一緒にステージを作っているわけですね。

 

思わず体を動かさずにはいられない、

RAISE A SUILEN の演奏がこのことを誘い、

そして私たちもまた熱意で返していく。

 

正直に言えばこの日、

メットライフドームは満員だったわけでは

ありません。

しかしそのことなど関係なく、

あるいはそれでもなお3万人前後はいたであろう

その熱が高まりあい、

音楽の1つの理想が生じた場がそこにあった、と

このように言うことができるでしょう。

 

バンドサウンドからアニメへ

BanG Dream! 全体としてみれば、

アニメから音楽へ手を伸ばすさまが

しみじみと感じ取れます。

 

しかしこの RAISE A SUILEN の場合は、

音楽からアニメへと手を伸ばすさまもまた

感じることができます。

 

その動きについて、

再び『ANIME Bros.#3』から引用してみましょう。

ベースボーカル・Raychell とドラム・夏芽は専業ミュージシャン出身だ。2人を含めた RAS のメンバー5人はキャラクター化が決定。アニメ 2nd Season にも登場する。Raychell を始めとする一部 RAS メンバーは声優に初挑戦するというから、Poppin'Party や Roselia とは真逆のアプローチと言える。

バックバンドとして知られてきた彼女たちは

音楽を任せられた役割からアニメの役へと

編入されていきます。

しかも、後述の Returns への一連の流れを作る

非常に重要な役回りです。

 

再び小原莉子さんのインタビューを見ると、

以下の言葉が出来事を補強します。

私以外も『バンドリ!』の音楽に心底惚れ込んでやっているメンバーたちばかりなので、始動からまだ数ヶ月という期間にもかかわらず、アニメにキャラクターともども出演できるのは本当にうれしく思っています。

メンバーのかたがたが皆、この作品を

お好きだということ。

これにより一層、バンドからアニメへの抜擢が

自然なものになったことでしょう。

 

バンドサウンドを起点として

アニメが構成されていくこの流れ。

アニメとバンドサウンドとの融和が

感じられる代表的な出来事の1つでしょう。

 

それがこの球場サイズの会場で

実現される意義については、

追ってまた考えていきたいところです。

 

技術の美と構成の美、 SILENT SIREN

2番手として登場する SILENT SIREN

その堂々たる立ち振る舞い、

高い演奏技術に、

意識する間もなく惹き込まれます。

 

加えて言えば、

かなり速いテンポにもかかわらず

裏打ちのハイハットダンサブルさを作る

『チェリボム』『八月の夜』が披露されます。

RAISE A SUILEN とはまた違う形で、

体が勝手に動かされるような演目が続きます。

 

ただ踊れるというだけではありません。

ダンサブルな歌というと

BPM 140 くらいのイメージがありますが、

ここでは体感的に 180 や 190 はあるであろう

常識を覆すような激しさのダンスが

自然に求められていきます。

 

まさにここでは、

このテンポのときにはこうしよう、と

意識を挟む余地などなく、

音楽と演奏が作り上げる文脈とに

なすすべもなく巻き込まれていく。

そんな時間だったと言えるでしょうか。

 

 

この系統の中でも4曲目『ジャストミート』は

かなり高画質とおぼしき PV が公開さているため、

ここで引用しておきましょう。

www.youtube.com

とりわけこの『ジャストミート』では、

リズムとともに跳ねるようなすぅさんの歌詞も

大変魅力的で、このことがいっそう

踊ってしまうことをサポートします。

 

 

さて、

以下は後述しようと温めておいたネタですが、

ここで早くも「音楽の形式」への挑戦が

興味深い形で見られるので、

これについて少し触れておきましょう。

 

冒頭で挙げた『音楽の哲学入門』によれば、

(「鳥の歌」という言葉は一応あるものの、)

音楽は人間特有の文化的な活動で、

その文脈が価値を持つというわけです。

 

逆に言えば、伝統や文脈を採用しつつも裏切ることで、

新しさを演出することができます。

 

アップテンポな交響曲のテイストを完全に踏襲しながら

交響曲では絶対なかったような沈黙を挿入したり、

ジャズには必ずアコースティックベースだと思われてた中

エレキベースを初めて持ち込んだり。

このように、形式を踏襲しつつも改変をすることが、

音楽の新しさを生み出します。

 

恐らくこれが初めての試みではないにせよ*2

縦ノリのテンポと楽器の音色とに、

横ノリの拍と振り付けとを混ぜていく。

これを受けて私たちは、一瞬混乱し、

新鮮な驚きがもたらされるわけです。

 

一方、

どう振舞ったらいいか考える間もなく、

体は、今何をすべきかを理解し、

踊り始めてしまうわけです。

このことは、

同じく『音楽の哲学入門』で議論されている、

「音楽には言葉以上のものがある」という内容と

整合しているように考えられます。

 

小説版『BanG Dream! バンドリ』の言葉で言えば、

「音楽ってのは、言葉を超えるんだ」、

ですね。

 

先輩としての暖かさ

Returns への思い入れについては

後述しますが、この日、

それを超えて涙を抑えられなかったのは、

SILENT SIREN が6曲目に披露した、

ライブ表題曲 NO GIRL NO CRY でした。

 

この曲の始まる前にこの曲の意味についての

映像が流れます。

そこでは、

同じことを頑張ってきた2バンドの

関係性について語られていました。

 

これを耳目にしたあととなっては、

その曲の演奏、歌詞に

心を揺さぶられずにはいられません。

 

かなりの実力を誇る SILENT SIREN

きっとその陰では

多くの苦難を乗り越えてきたことでしょう。

 

ガールズバンド史上デビュー後最短で

日本武道館ワンマンライブ*3、と言われる一方、

結成の 2010 年*4からで見ると5年後であり、

時間をかけて練ってきた下積み時代が

想像されます。

 

そんな彼女たちから、

ときには泣きながら練習してきたとされる

Poppin'Party に向けられた曲のメッセージは、

あまりにも暖かさに包まれています。

 

特に引き付けられるのは、

「進んでいく 泣きながらでも」という歌詞。

 

泣くことは決して足止めではないんだ。

そのようなメッセージを、

あるいはもしかして自分たち自身に対しても、

語りかけているわけです。

 

先輩というのは本当にいいなと思いました。

 

巧みな技術によって背中で語り、

一方で、こうしたメッセージで

勇気づけてくれもするのです。

 

 

ところで、少し観点は変わりますが、

「同じ道でも 違った夢」という歌詞。

これも印象に残ります。

 

それぞれの分野の中でそれぞれに培ったものと、

それを超えた切磋琢磨

その両方がこのライブにおいて披露されているのだと

改めて感じさせられます。

 

2バンドのそれぞれの出演が

単独でそれぞれ完結した魅力を持つとともに、

ライブ全体として見たときに要素を和を超える

さらなる魅力もまた生まれるんだ。

 

そんな思いに至りました。

 

 

前述のようにすぅさんの歌詞も素敵な一方、

こうした中村航さんによる作詞は、

ライブ全体の創り出すものを

感じさせてくれます。

 

 

さて、その延長線上に乗るかのように、

ときめきエクスペリエンス!』のカバーが

SILENT SIREN によって奏でられます。

 

結成 10 年目の巧みな演奏、

さらに加えて、不思議なほどに

声の相性もバッチリと来ます。

 

ここまでの曲もそうなのですが、

演奏に見どころが非常に多いのです。

 

4人がそれぞれに次々と

見ているだけでグッとくる演奏、そして

巧みに動く身体性とを生みだされるので、

焦点が定まらないというほどに

次々と目を引き付けられるわけです。

 

 

加えて再び歌詞に目を向けますと。

 

「繋げ! 掴め! 終わらない夢をみて」といった

先へ進まんとする歌詞の多くは

両バンドがこれからも前進していこうという

前向きになメッセージに感じられます。

 

そんななかで、

ラスサビの「進め! ポピパ!」という部分は

再び暖かい応援歌を感じさせます。

 

ありとあらゆる情報が密集して

音楽のノリ全体を作り上げるなか、

不意打ち的に情をも感じさせるのは

なかなかニクい演出ですね。

 

無音の音楽、恋のエスパー

 最後の曲として10曲目に披露されるのは

『恋のエスパー』。

 

現時点で最も新しいアルバムである

『31313』の冒頭にあり、また

コールを誘う構成にもなっていて、

出演の最後を締めくくるのに

相応しい一曲ではないでしょうか。

 

恐らく今後も、

ライブの定番曲になっていくのでは

ないでしょうか。

 

なお、Youtube の公式チャンネルでも

最初に自動再生され、認知されやすくなっています。

その意味でも一層みんなが楽しめる曲なわけです。

 

恐らくはこの人目への触れやすさが、

後述する仕掛けに繋がっていたのでしょう…。

 

この曲も先例同様、

4つ打ちのリズムがダンスミュージック的で、

踊りを誘います。

 

しかしそんなリズムのサビのさなか、

シンバルに合わせて

バスドラムが半拍分 前のめる箇所があります。

ここでも形式を自然に崩していく新鮮さで、

身体が動かされる別の要素を作って感じられます。

 

 

さて、

楽しみにしていた時間もやがては終わるものです。

前述のように各演奏の見どころが非常に多く、

いつまでも聴いていたい、見ていたい、

そのように名残惜しむアウトロの時間。

 

前述のように人目に触れていたであろうこの曲では、

そのアウトロの無音の瞬間に

皆がきれいにそろってピタリと動きを止めるという

コールの一種が大成功するのですが。

 

ここにおいて、その成功を見越していたかの如く、

無音の時間が限りなく引き伸ばされたのです。

 

名残惜しむ我々を察していたかのように、

以下のような内容を語り始めたすぅさん。

 

まだ終わりたくないから、

時間を止めてしまったのです、と。

 

月並みですがジョン・ケージの『4分33秒

さながらに、私たちは無音という音楽を

楽しむことになったのです。

 

ファミ通 App のレポート によると、

ファンの間では有名らしく、

初めての演出ではないようではありますが。

 

しかしそれでも、同記事が言うように

「初めて見る観客は唖然」とする演出。

加えていえばアニメのライブ特有の、

ペンライトの光が合わさることで、

皆が一斉に止まっているということが

ことさらに可視化されます。

 

ここにおいてもまた、

音楽は文脈や形式とともに楽しむものだ、

そしてアニメとバンドの融合がこれらに挑戦するのだ、

これらのことを痛感させられたのでした。

 

この曲におけるエスパーという語は、楽曲中では、このような能力という意味を表すわけではありません。恋において相手の心理を見透かせるのかそうではないのか、という文脈でエスパーという意味付けがなされています。このような意味付けの転用も面白いのですが、ともあれ、よく聴くと歌詞が一連の物語になっているところもまた、魅力的な点だと言えるでしょう。

 

未来でもなく過去でもない『二重の虹』

外との境界から夕陽が差し込み、

初夏の風薫る空気が運ばれていく

開放的な会場、メットライフドーム

 

夏を先取りするように颯爽と演奏された

『夏のドーン!』から始まり、

著名な曲たちが続いていきます。

 

その中でも、

数ある Poppin'Party の曲の中でも、

名曲であるとよく耳にするこの

『二重の虹(ダブル レインボウ)』、

これは非常に印象に残るものでした。

 

未来ではなく現在

 

メロディや編曲はもちろんのこと、

以下の歌詞が非常に印象に残ります。

タイムマシンで行く場所は ひとつ
"現在(いま)"しかないんだ!

 

いまの重要さを通じてしみじみと感じられる

この曲とライブの魅力、 

これについて振り返っていきます。

 

東西における哲学をやさしく解説した本

人工知能のための哲学塾』、その

東洋哲学編では、道元の言葉から、

時と存在は同じことなのだ、と

主張します。

 

つまり、今この場でこの瞬間、

自分も世界も新たに作られる

というわけです。

 

後述する音楽の形式の生成もそうですが、

この演奏それ自体、

今この場で生まれ出てきているのだ、と

痛感される形になります。

 

あるいは想像してみると、

この歌の内容自体が、

Poppin'Party のキャストのかたがたも励まし、

演奏をより力強いものにしていたのかもしれません。

 

既に相当な腕前を見せている Poppin'Party ですが、

幕間では「修行します!」というテロップが出、

今よりもさらに技術を高めたうえで演奏したい、と

そのような誘惑もありうることを匂わせます*5

 

しかしこれに抵抗するかのように、

完成した、「結果としての」未来の自分ではなく、

過程として腕を高めていく自分たちを、

美しくたくましく表現されていた。

私が感じたのは、まさにそのような演奏でした。

 

私の過去記事では、

未来へ可能性を開いていく重要さについて

議論してきました。

 

そこで重要になるのは、完成された姿ではなく、

やはりそこへ向かっていく過程

すなわち現在なのだと考えられます。

 

この二重の虹は、

この意味において改めて現在を強調し、

この瞬間の演奏の意味を最大化してくれる。

そのような瞬間だったのだと思います。

 

現在における変化の重要さ

 

一方で、

雨が上がるという変化を歌う箇所からは、

単に現在に満足するだけではなく、

現在に変化が含まれていることに満足しよう、

という内容が感じ取れます。

 

ゲーム中の物語に焦点を当てると、この変化は、

仲間との葛藤を乗り越えるという変化の瞬間、

その時間をスキップせずに立ち向うこと。

この意義とリンクしているようです*6

 

シナリオにしても、演奏自体にしても、

未来の姿を目指して格闘していく今、

その今があるからこそ未来の輝きに繋がるために、

ひるがえって現在の重要さが強調される。

このように理解できるのではないでしょうか。

 

 

過去ではなく現在

さて、以上の流れから行けば

ことさら過去を現在より優先する理由は

見当たらないように思います。

 

しかし一応、なぜ過去ではなく現在かという

問いを考えるなら、

ドゥルーズ 群れと結晶』における

反復の議論が役立ちそうに思います。

 

同書の 100P 前後が、

ベルクソンを踏まえて主張しているのは、

現在はすでに過去の反復を含んでいる、

ということです。

 

ドゥルーズに言わせれば、

 似たような出来事の反復であっても、

それは決して同一のものではない、

ということになります。

 

同じ曲目の演奏であっても、

少しずつ細部が異なっており、

時間とともにそれらが折り重なっていきます。

 

誤解を恐れずに言えば、現在という時間は、

同じ曲の少しずつ様々に異なる過去の演奏を、

資源として豊富に含んでいる。

そのような時間だと言えるでしょう。

 

これを踏まえれば、上の節で書いた、

現在をスキップしない重要さが

一層明らかになると思います。

 

現在をスキップしないでいくことが、

未来にとっての「過去の蓄積」を

より豊かにしていくというわけですね。 

 

 

ここまで見た来たように、

現在を最も重んじるという強さを持った

『二重の虹(ダブル レインボウ)』。

 

今まさに世界と自分を作っていること。

 

思い通りになることもならないことも、

それらを1つ1つ未来への資源にすること。

 

過去の全てを折り重ねていること。

 

こうしたメッセージを感じさせる、

エモーショナルな瞬間でした。

 

私事で恐縮ですが、

いい年になってきた今でも、

日々はいろいろな躓きばかりです。

この日、

そうしたさまざまな葛藤に立ち向かうための、

大変な勇気をもらったと感じています。

 

この日の音楽の一つの頂点、『Returns』

4曲目の二重の虹に続けて、

5曲目は待望の Returns です。

 

ここまでのラインナップから一転して、

アニメの文脈を強く感じさせる、

重要な挿入歌です。

 

こうした、作中で重要な意味を持つ曲を、

ナンバリングだけでなく

こうしたイベントでも披露してくれること。

これも、

形式や文脈への挑戦と言えるでしょうか。

ともあれ、大変ありがたい時間です。

 

 

アニメであることに彩られる時空間

花園たえと過ごした時間、

あるいは5人が過ごしてきた時間。

 

私が覚えている限り、

演目中のモニターには、

アニメの5人が乗り越えてきた

葛藤、苦労、そしてその先の深い満足、

その今までの軌跡が、

大きく写しだされていたと思います*7

 

その中には、やはり、以下のことが

含まれていたはずです。

 

迷いを打ち切って決意した山吹沙綾が加入し、

「聞こえる」思いに導かれた5人の揃ったライブ

 

SPACEのオーディションに全力で挑むも、

失敗したことに涙を流し、

それでも想いが伝わって合格できたということに

皆が抱き合った時間

 

このように過ごしてきた時間が

あわや失われそうになる悲痛を経、

そして再び命を吹き返すというこの歌。

これを体感する私たちが、

何も感じないはずはもちろんないのです。

 

 

 

アニメの歌に典型的に見られる形式、例えば一人ずつ順番に歌う、全員で歌うといった形式は、『前へススメ!』において色濃く見られます。重要なのは、なぜこの歌の中で順番に歌ったり全員で歌ったりするのかが、アニメの物語によって説明される点です。今回のライブにおいては、『前へススメ!』自体はありませんでしたが、このとき流れた映像の中で、上記の意味付けが顕現する形になったのです。このことは、アニメという形式の伝統と、バンドサウンドの伝統とが、融和する瞬間を感じさせます。これについては終章で再びまとめたいと思います。

 

演奏するキャストの5人は

穏やかな表情や物悲しい表情と、

非常に繊細に表情を移り変わらせていました。

これにより、曲の情感が彩られます。

 

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出典:BanG Dream! 2nd Season 12話/©BanG Dream! Project
明るい表情で歌うサビのシーン。

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出典:BanG Dream! 2nd Season 12話/©BanG Dream! Project
時間は前後しますが、うれいを含んだ表情のシーン。

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出典:BanG Dream! 2nd Season 12話/©BanG Dream! Project
いっそう重い表情になるサビ終盤。いくつもの表情がある繊細な描写ですが、実際にこうした表情の移り変わりが、ライブにおいても見事に披露されました。

音楽であることの意味が語られる Returns

 曲の情感を彩るのは、

表情や動きだけではありません。

 

音楽心理学入門』214P によれば、

演奏者が楽曲を意識して”芸術的”に演奏する際、

テンポの揺らぎが特に重要だそうです。

 

ただでさえ生演奏であり、

テンポの細かなコントロールができる中、

加えてこの Returns では、 B メロの直後に

大きくテンポの変化する箇所があります。

 

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出典:BanG Dream! 2nd Season 12話/©BanG Dream! Project
静かなシーンを切り裂くかのようにドラムが入り、

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出典:BanG Dream! 2nd Season 12話/©BanG Dream! Project
バックボーンとなるリズムが次第に、そして極限までスローになるまで、テンポを落としていきます。

 

自然に情感を呼び寄せる曲の構造が

生演奏ということに重なり、

曲の響きを豊かなものにします。

 

また、この曲では以下の点も見逃せません。

 

作中では曲の完成後に、

以下の文言が付け加えられます。

ありがとう…

心が震えだす歌 Returns

 

上で参照した『音楽心理学入門』、

その 202P によれば、

以下のような研究結果があると分かります。

音楽は、「身震い」を感じさせるような

強い快感情を喚起させうるというのです。

 

興味深いことに、このとき脳神経では、

以下のようなことが起こるそうです。

 

音楽聴取によって、

本来「生物学的生存」に反応する部位、すなわち

生死に関わるような事に反応するはずの部位が、

活動をするというのです。

 

誤解を恐れずいえば、音楽には、

それほど心の深い部分に

働きかける力があるというわけです。

 

これを踏まえると、

Returns の最後に加えられたこの言葉、

「心が」「震えだす」という言葉は、

あまりにも的確にそうした状況を体現している。

そのような体験が振り返えられます。

 

文脈の呼び声、『STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜』

もし行われたらどれほど嬉しいだろうなあ、と

待ちかねていたこの STAR BEAT。

 

それゆえ少し肩に力を入れすぎてしまったことを

後で少しだけ後悔しましたが・・・笑、

文字通り様々な文脈を引き受けているこの曲は、

それらを通して一層楽しむことが可能になっています。

 

この時点で私はまだ小説版を読めていませんでしたが、

アニメでの沙綾加入に思いを寄せ、

静かに歌われ始める A メロに耳を傾けます。

 

自分がやりたいという声が聞こえるも、

「聞こえないふり続けてきた」葛藤の時間。

煮詰まったこの沙綾の想いに、

「ひとつの気持ち ずっとかかげ進もう」と、

続くフレーズがそっと働きかけます。

 

かくして一歩を踏み出す沙綾、

そして初めて5人になる文化祭ライブは、

涙なくして聴けない場面です。

 

一方、

パラレルワールドである小説版において、

これは戸山香澄が自分のために書いた歌詞だと

気づかされるわけですが。

沙綾加入という共通のテーマを持ちつつも、

両時空で二人がそれぞれに励ましを得る

たいへん深みのある曲です。

 

しかし私が記憶している限り・・・

ライブ会場において、

良い意味で期待が裏切られます。

 

アニメ中の人物というよりはむしろ、

星を描いた映像が

メインスクリーンで主に扱われるのです。

 

風景としてバンドを彩る映像であり、

Poppin'Party を象徴する星の映像。

 

ともあれ、少し深読みすると・・・

アニメだけではなく、今このときの、

生の Poppin'Party の音に集中するのだ、と

そう促されたような気がします。

 

ここまでのアニメからバンドに接近する流れと

逆を行くかのように、

少しアニメを離れてバンドに接近する

Poppin'Party の演奏。

そのような数分間だったのではないでしょうか。

 

私自身、

初めて CM 等で流れるのを見たときは、

元気な明るい歌だな、くらいに

思っていましたが。

 

もちろんそれも全くの間違いではないでしょう。

しかし、アニメで沙綾を救う歌と知り、

切なさも秘めた歌でありつつ、

物語によって一層の意味がもたらされる歌でもある、と

理解できていきます。

 

小説を読めばさらに、香澄を救う歌でもあるとして

少し複雑な深い喜びを味わえるようになります。

 

しかし!その何重にも重なっている物語から、

ときには少し離れ、

素朴に音楽として、バンドの音として

析出されもする。

 

仮説に過ぎませんが、

ほどなく ROCK IN JAPAN 出演が決定したことも、

整合して感じられます。

 

いずれにしても、

それ自体で Poppin'Party の意味を表し

曲自体代表的な曲と言えるだろうこの曲は、

複数の物語をときに見せたり、

あるいは音楽それ自体の良さを見せたりと、

ときごとに多様な喜びをもたらしてくれる

そんな歌なのではないでしょうか。

 

まとめ、音楽を聴くこと

 

以上で書いてきた感想を、

改めて『音楽の哲学入門』に沿って

まとめるとともに、

ライブでどのように音楽を体感できるのか、

これを整理していきます。

 

このため、まずは

『音楽の哲学入門』の要点を

改めて自分なりの理解で整理します。

 

・音楽は文脈のおかげで一層良いものになる。

 

・従って、文脈を引き継ぎつつも一部を変えることが、

 新しさを創るみなもとになる。

 

・音楽を聴くときにどんな感情になるかは、

 作り手の感情以上に、曲の特徴に依存する。

 

・音楽には言葉以上のものがある。

 

・それは、様々な要素が複雑に絡み合うことで

 生み出される。

 

以上のことを踏まえて、

さて、音楽を聴くことを考えていきましょう。

 

 

音楽は文脈を持つ、つまり、

既存の音楽ジャンルがどのような意味を持つか、

これを知ることによってより楽しめるとも言われます。

それが音楽の形式ということです。

 

これを踏まえると、音楽の更新というのは、

既存の形式を踏まえた上で、

新しい試みを合成するということです。

 

同署を読む限り、

音楽は伝統を重んじつつも

このような更新の挑戦の積み重ねであった、

そのように理解できそうです。

 

このライブでは、

アニメの文脈がバンドの文脈に持ち込まれる試みが、

(世界で初めて行われたことかどうかはともかく、)

何度も行われました。

 

アニメのライブでよくみられる

「みんなの近くに行く」という演出も、

特殊な設備によって行われました。

 

演奏者の立つ地面が、

ドラムごと含めて空中に浮き、

移動していったのです。

 

あるいは前述のように、

1人ずつ歌う、皆で歌うという

アニメに特徴的なフォーマット。

 

典型的には

キズナミュージック♪』において

はっきりと現れます。

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出典:BanG Dream! 2nd Season 13話/©BanG Dream! Project

 

この曲は2期1話においては5人だけの映像をバックに歌われますが、2期3話以降はほかのバンドもバックに現れ、みんなの歌として歌われます。2期13話においてこの演奏があった場所であるGalaxy という場所は、1期13話の SPACE が空間であったのと比較すると大勢の星≒仲間に属した、という意味合いを感じ取れます。が、これについてはまた後日改めて考えることにしましょう。)

 

ともあれ、アニメのライブに趣くとき、

こうした音楽の既存の文脈と、

アニメの文脈とが緊張し混じりあう箇所、

それに着目することで、

新鮮さと喜びとを享受できるかもしれません。

 

 

続いて、音楽と感情についてです。

人は一般に、音楽を聴くだけで、

自然と様々な感情を喚起されるものです。

この感情は、作り手の感情が表されたものでしょうか?

 

もちろん、そうである場合も多いでしょう。

しかし、作詞作曲編曲者や、演奏者の感情と

私たち聴衆の感情が、必ずしも

一致する必要は無いようです。

 

同書は、その代わりに、

音楽それ自体が現に聴衆にもたらす感情

重要視します。

 

これをふまえてライブの楽しみ方に

還元してみましょう。

 

つまり、「この曲はこのような意図だから、

こう楽しまなければならないのだ」、と

考えこみすぎなくてもよいのです。

 

もちろん、曲の意図を踏まえることで

楽しめる場合は非常に多いですし、

その場合はそれが適切なのだと思います。

 

しかし、いま現に感じる感情が別にあれば、

それはそれで楽しんでしまうのが良いでしょう。

 

 

さて、音楽からもたらされるものは、

言葉で表せるものを超えているそうです。

 

同書はこれを「語りえなさ」と表現し、

例えば「崇高」、つまり自分をちっぽけに

感じさせるものこそが、

語りえなさの1つだとしています。

 

 

あるいは加えて、

音楽心理学入門』から引いたように、

身体性身を震わす体験

このような言外のものも音楽に含まれるでしょう。

 

回りにぶつからないように

気を付ける必要こそありますが、

思わず体を揺さぶってしまうことに身を預け、

体全体で楽曲を楽しみたいですね。

 

 

最後に、音楽の構成要素についてです。

 

音楽は多数の要素を併せ持っており、

それらが全体として、例えば崇高などを

構成するというのです。

なので、1つ1つのことを分析すればよい、

とは限らないわけです。

 

これは単に経験的なものですが、

「この曲は、誰々の何々が楽しみなんだ」、

という点に着目しすぎると、

それに意識が固定されすぎ、

他のかたのある仕草も実はとても良い、

というのを見逃す恐れがあるかもしれません。

 

次々と目移りしてしまうときは、

目が移るままに任せ、

全体として今この場にある演目を楽しむのが

好ましいかもしれませんね。

 

 

聴くことについてまとめましょう。

 

アニメ音楽との文脈を知ること、そして

 それらの境界が交わるのを味わうことは

 きっと楽しい。

 

・意図を考えるのも良いけど、

 いま現に感じているものを大事にしよう。

 

・言葉でわかる以上のことをで楽しもう。

 

・誰々の何々、という要素への着目も良いけど、

 全体として楽しむほうが良さそうなら、

 そのようにしよう。

 

加えて敢えて言えば、しっかり寝ておくのも大事ですね。当日早起きして一気見の続きをしていたためか、終演後に家につくなり、余韻に浸る余裕もなくバタリと眠ってしまったので・・・笑。前もって余裕をもって予習をしてしまいたいですね。

 

 

今回も1万字以上になりましたが、

ここまで長らく、

ありがとうございました。

 

また、

場を作るような所かどこかで

お会いしましょう。 

 

 

参考文献 

書籍

音楽の哲学入門

音楽の哲学入門

 

出版社サイト

 

ANIME Bros.♯3 (TOKYO NEWS MOOK 770号)

ANIME Bros.♯3 (TOKYO NEWS MOOK 770号)

 

出版社サイト

 

音楽心理学入門

音楽心理学入門

 

出版社サイト

 

BanG Dream! バンドリ (電撃文庫)

BanG Dream! バンドリ (電撃文庫)

 

出版社サイト

 

www.hyoron.org

 

人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇

人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇

 

 出版社サイト

 

【現代思想の現在】ドゥルーズ---群れと結晶 (河出ブックス)

【現代思想の現在】ドゥルーズ---群れと結晶 (河出ブックス)

 

出版社サイト 

 

 Web

bang-dream.com

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

object-co.jp

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

www.youtube.com

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

silent-siren.com

※ 2019/06/01 最終アクセス 

 

www.billboard-japan.com

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

app.famitsu.com

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

otokake.com

※ 2019/06/01 最終アクセス

 

映像作品

anime.bang-dream.com

 

anime.bang-dream.com

 

楽曲

『NO GIRL NO CRY』SILENT SIREN ver.

http://silent-siren.com/news/2187.php

 

ときめきエクスペリエンス!

https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10065

 

『恋のエスパー』

https://www.universal-music.co.jp/silent-siren/products/upch-29322/

 

『二重の虹(ダブル レインボウ)』

https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10125

 

『Returns』

https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10190

 

STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜

https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10045

*1:株式会社オブジェクトのプロフィールより。

*2:以下は、たまたま現地でお会いできたフォロワーさんに知らせて頂いたことですが。Twitter では、こうした曲の構成が、ダンサブルなバンドサウンドの大御所として知られる DOPING PANDA にちょっと近い、と話題になっていたようです。たしかに、先駆者である彼らについて思いを巡らせるべきときだったかもしれませんね。

*3:SILENT SIREN OFFICIAL SITE

*4:Silent Siren 『Start→』インタビュー | Special | Billboard JAPAN

*5:少し前のことですが、『アニバタ Vol. 18』によれば、愛美さんが  2017年の『Road to 武道館』という映像のインタビューの中で、「歌が自分の思うレベルに達していない」と述べていたそうです。

*6:「Poppin'Party/二重の虹(ダブル レインボウ)」はガルパのシナリオにリンクしたシングル曲

*7:ファミ通 App のレポートでは、「2番では1stシーズンから2ndシーズンまでのダイジェストが流れる特別編集だ。」とあります。