語用論から見る Poppin'Party の夢とキラキラドキドキ

こんにちは。センケイです。

 

アニメ BanG Dream! では、1期は特にそうですが、
2期や3期においても Poppin'Party をめぐる
青春群像劇が詳しく描かれています。

 

しかしそれにも関わらず、彼女たちが
どのような思いから共に歩んでいるのか
若干見えにくいところがあります。

 

これは、ひとつには、
彼女たちの会話や歌われる内容が
かなりハイコンテキストであるためでしょう。

 

しかし実はそのハイコンテキストさこそが、
その関係性に貢献しているのではないか。

 

そしてそれを読み解くヒントが、
発した言葉の意味はその言葉の使われ方で変わる、
という考えをもつ「語用論」にあるのでは。

 

このように考え、ちょうど3期が
完結したばかりでもありますから、
言語学とくに語用論の知見を踏まえながら
Poppin'Party を読み解きたいと思います。

 

ここでは、特に重要になると考えられる、
「夢」「キラキラドキドキ」に
着目したいと思います。

 

この2つを考えていくことが、
結果的には彼女たちの関係性を
読み解いていくことにもなるでしょう。

 

 

便利ながらにして風情もある、認知語用論

 

これは私のとても好きな概念なのですが、
なぜ、「花見に行く。」と言うとき、
「花」が桜のことを指すのでしょうか。

 

考えうる説明としては、
「桜は花を代表するもの、目立つものであり、
わざわざ見に行くと言ったらそれしかない。」
という含みを皆が暗黙のうちに思っていて、
そんな含みがいつしか言葉として定着したのだ。
このような説明が有り得るでしょう。

 

あるいは、
「明日、天気になるといいね。」というとき、
これもまた天気の中でも特にその一部である
晴れの天気のことを指しています。

 

逆のパターンもあります。
「ちょっとお茶飲みに行かない?」というとき、
このお茶の中にはコーヒーもまた入るでしょう。
お茶菓子さえも想定に含まれるかもしれません。

 

このように、花という言葉が
その具体例のひとつである桜を指したり、
逆に、お茶という言葉が、
コーヒーやお茶菓子までもを指したりすること、
このような伸び縮みを「シネクドキー」と言います*1

 

いろいろある比喩のうちの一種です。

 

アニメ BanG Dream! の中では、
こうのように指す対象を伸縮させる会話が
それなりに頻繁に、かつ、
核心をつくやりかたで現れてきます。

 

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BanG Dream! 1期2話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

これはあまり比喩的ではない例ですが*2
Glitter*Green のライブを見たのちの日、
戸山香澄と牛込りみが感想を共有するシーン。
ここで戸山香澄は、
最終的に「ライブやりたいよ!」言い放ちます。

 

これは意図してかせざるしてか、普通に考えると、
ライブ一般を指している意味に聞こえます。

 

しかし実際は、
りみが「うん…!」と答えるのに対し
香澄は「わー!やろう!」と抱きつくことから、
上の発言が実は、具体的な (同じ) ライブを
指していたのだと分かります。

 

一般の意味でのライブなのか、
一緒にやる同じライブなのか。

 

このように、抽象的なものと具体的なもの、
敢えてどちらの意味とも取れる発言が、
BanG Dream! での特徴として繰り返し現れます。

 

さらに、この記事の展開を先取りすると、
3期においてイベント会場を決めるシーンで、
次のような重ね合わせが使われます。
こちらは比喩的な例です。

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BanG Dream! 3期1話/©BanG Dream! Project

 

「撃ち抜くなら最高の夢ーーですよね!」
ここで、夢という言葉は、
本来抽象的な夢一般を指す言葉であるところを、
具体的な武道館という夢を指す言葉としても
転用されてきます。

 

音楽の文脈において「夢」という言葉は、
花にとっての桜のごとく、
当然のように武道館を指すものとして
理解されることでしょう。

 

 

なお、シネクドキーのほかにも現れるものとして
「メトニミー」というものもあります。

 

これは簡単に言えば、
その言葉の「隣にあるもの」を想起させるものです。

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BanG Dream! 3期1話/©BanG Dream! Project

「あなたを、新しいステージにお連れします」
このパレオのセリフは、
客席のチケットを手渡していることからも、
ステージではなくそれと隣接する「客席」に
お連れするという意味に聞こえます。

 

このように隣にあるものを指す比喩の一種を
メトニミーといいます。
しかしパレオはこれを逆手に取り、
実際には文字通り「ステージ」に
連れて行こうとしているにも関わらず
メトニミーで巧みに六花を誤解させています。

 

これもまた BanG Dream! において、
比喩の意味と文字通りの意味とを使って
敢えて撹乱させている重要な例の1つです。

 

 

悪送球をおぎなう、協調の原則

会話の中で生じる意味について、
もう少し考えてみましょう。

 

典型的には花園たえに見られるように、
Poppin'Party のやりとりの中では、
一見マトを外したようなレスポンスが、
前述のシネクドキー以上に多く見られます。

 

しかしそれでもなお、多くの場合、
彼女たちはコミュニケーションを
そのまま円滑に進めていっています。

 

いえ、むしろ、そうした的外しこそ、
その日常を豊かに彩っているとさえ
言えるかもしれません。

 

その相互理解の源となるのは、
会話における、グライスの「協調の原則」、
これなのではないでしょうか。

 

何か相手が話してくれるときに、
相手は最低限これは満たしてくれるだろう。
そのような想定のことです。

 

協調の原則は以下の4つの準則からなります*3

 

①量の準則: 必要とされる情報をすべて与える; 必要以上の情報は与えない

②質の準則: 真実ではないと思うことを言わない

③関係の準則: 関係のあることを言う

④様態の準則: 不明確な表現を避ける

 

特に重要なのは、
量の準則と③関係の準則でしょう。

 

③関係の準則で分かりやすいのは、
RAISE A SUILEN からの招待を受けて
皆が集まってくるシーン。

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BanG Dream! 3期1話/©BanG Dream! Project

朝日六花は、人混みに溺れていたところ
たえに助けられた旨を説明します。

 

たえはこれを受けて「一本釣り」と言います。

 

単独ではまるで無関係そうに見える表現ですが、
関係のないことは言わないだろうという推測が
関係の準則によって働き、
皆はその発言を自然なものとして受け入れます。

 

例えば、ばったり巡り合って、
そのまま連れてきたのだろう、といった具合に。

 

あるいは、物語の進行に
実質的な意味をもたらす場面もあります。

 

1期5話、りみが姉の牛込ゆりに対し
蔵での初ライブ開催を告げるシーン。

 

りみが「土曜か日曜」というのに対し、
姉のゆりは「空けとく」とだけ返します。

 

りみは「うん。…ふえっ!?」と、
ワンテンポ遅れて驚くわけですが、
それもそのはず。

 

①質の準則・・・必要なことは全て言い、
必要のないことは言わない準則。これに従えば
この発言は当然、りみにとって必要のない
「ゆりがその日暇にしておく」という話には
留まらないことになります。

 

つまり、必要なメッセージである
「行く」という意味を持つわけです。

  

 

以下は、「キラキラドキドキ」を知るにも
重要な点になってきますが、
各メンバーの加入のいきさつを知る上で、
この協調の原則が
大きな意味を持つものと考えられます。

 

例えば、市ヶ谷有咲が徐々に香澄と
打ち解けていくシークエンス。

 

始めは詰め寄りがちな香澄に対し、
ギター目当てかとの疑いもあってか、
距離を空けていた有咲。

 

香澄が蔵の片付けについて有咲を手伝い、
これをきっかけにしてか、
あるいは時が満ちたためか、
行き帰りの物理的距離に現れるように
二人が歩み寄っていきます。

 

そしてその矢先に訪れるのは、
ギターケースの取っ手が壊れ、
香澄がギターを落としてしまうシーン。

 

ここで有咲が第一声で放つのは、
「怪我は!?」という言葉。

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BanG Dream! 1期2話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

質の準則に従って十分な情報を
与えているはずの有咲。
そんな有咲がここで気にかけたのは、
値打ちを見出しつつあったギターではなく、
何よりも香澄でした。

 

少しずつ歩み寄ったことがふいに現れる、
心動かされるシークエンスです。

 

原則に従って意味を暗に伝えることが、
視聴者に対しても巧みに行われ、
少ない言葉でも深い意味を形成する
見事な描写です。

 

このように、人と人との歩み寄りが
暗黙の了解から少しずつ成される、
そんなシーンが幾箇所も見つかります。

 

その毎に、
協調の原則でハイコンテキストが補われ、
それが親密さができていく源や、
充実した日々の源になっている。
そのように理解できそうです。

 

少しまとめましょう。

 

同じ言葉が広い抽象的なものを指すことも、
狭い具体的なものを指すこともできること。

 

夢という言葉は、具体的な武道館をも
指すことができるのでした。

 

登場人物たちが、
伝わるかギリギリのことを言うとき、
暗黙の了解が活用されることで
コミュニケーションが成立すること。

 

値打ちのあったギターよりも優先して
香澄のことを気にかけるということは、
大事に思っているという
暗黙のメッセージになります。

 

そして BanG Dream! では、
これらの法則や原則が、
同時に2つの意味を指すためにも
頻繁に使われてきます。

 

これが、「夢」「キラキラドキドキ」の
果たす役割を理解する上でも、
重要になってきます。

 

いよいよ読み解きに入りましょう。

 

先に、少しずつ歩み寄っていく描写と近しい、
「キラキラドキドキ」について考察しましょう。

 

Poppin'Party の原動力、キラキラドキドキ

 

「夢」が抽象的な意味と具体的な意味、
その両方を持っていることを上で少し
述べましたが、
キラキラドキドキという言葉もまた、
抽象的な意味と具体的な意味、
両方で使われていると言えそうです。

 

この言葉の解釈は少し難しく見えますが、
まず抽象的なほうの意味については幸い、
先人のかたがたの知恵をお借りできます。

 

例えば春剣防具さんのご指摘によれば、
キラキラドキドキは「ごく当たり前の日常」、
あるいは「偶然」である、と理解できます。

 

一方、 Soitan さんは、既にその前、
この2つの概念を合わせているような形で、
 キラキラドキドキは潜在的な現在や日常を
集めるもの (旅) である、と
ご指摘されています。

 

いずれにしれも、キラキラドキドキは
ごく些細な日常でも構わないと言えます。
ただし、単に日常があるだけでなく、
偶然、あるいは潜在的な可能性に対して
開かれていなければならないとも言えます。

 

再び Soitan さんの言葉を借りるなら、

可能性の原石、普段隠れていて知ることのなかった日常に焦点を当てる

 ことが求められます。

 

これに資する具体的なものとして、
その1つにライブが上がってきます。

 

夢とキラキラドキドキは、具体例においては
それなりに重複しているわけです。

 

さて、このキラキラドキドキを知るに際し
極めて重要な回の1つは、
1期5話でしょう。

 

抽象と具体、そして具体の中でも複数の意味が
行き来されます。

それが、Poppin'Party の関係性に対しても
大きく貢献してきます。

 

まず、香澄がたえの加入を説得し始める場面。

SPACE の設備とたえの想いを前に、

すごい頑張って、オーディション受けて、みんなでキラキラドキドキする!

と声高に述べます。

具体例としてライブ、特に SPACE でのライブが
あてがわれています。

 

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BanG Dream! 1期5話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

これに対するたえの返答は、

じゃあやって。私を震えさせて!

というものです。

 

ここだけ切り取ると、
加入の条件は震えさせることであり、
その震えさせる方法として認められるのは、
SPACE でライブすることだけに見えます。

 

しかしのちの昼休みの描写からわかるように、
上のいずれか一方は間違っていて、
「ドキドキ」させられれば加入する、
という話へとまとまっていきます。

4話でたえが加入に傾きつつあったことからも
示唆されているのでしょう。

 

ここにおいて面白いことに、
そのドキドキの具体的な意味は
時々刻々と変化していきます。

 

再び SPACE でのライブを聴かせる意味になったり、
その場所に限らずライブを聴かせる意味になったり。

さらには、ライブを聴かせるのではなく、
一緒にライブを行うという意味にも変化します。

ただし、
たえの音楽への想いが暗黙の了解になるためか、
音楽という範囲から外には出ません。

 

言い換えると、キラキラドキドキの意味が
音楽の範囲まで絞られるものの
その具体的な意味は完全には定まらず、
場所の間や、披露と共演の間で揺れ動きます。

 

しかしこの揺れ動きこそが、
Poppin'Party の間の親密さの誕生に
大きく貢献しているのではないでしょうか。

 

この回内で言葉としては現れませんが、
たえは香澄の演奏や開始のタイミングを
手伝っていく中で、
明らかにキラキラドキドキしているような
表情を浮かべ始めます。

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BanG Dream! 1期5話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

後にたえが SAPCE の同僚から
「いいことあった?」と聞かれることも、
その充実ぶりを補足しています。

 

ライブという目標を共有しながらも
敢えて聴取か共演かを区別しないことが、
たえを含む4人の絆を生み出していくために
うまく機能したわけです。

他の3人もまた充実した表情を見せており、
このことを裏付けています。

 

これは言語からはみ出す話になりますが、
クライブ当日にたえがギターを持ってきたことで、
関係の準則に従って、彼女も奏者になると
皆に理解されたことでしょう。

「ドキドキさせる」の意味もまた、
もちろんこれを受けて変化します。

 

このように Poppin'Party は、
あえて明確にしなかったドキドキという言葉に
そのときどきで一番適切な意味を与え、
そのことによって親密さを高めることが
できてきた。このように言えるでしょう。

 

 

なお、加えて言えばクライブの当日には、
山吹沙綾もまた明らかに鼓動に耳を傾けるような
表情を見せています。

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BanG Dream! 1期5話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

お昼休みの仲間だからと誘ったことが、
コンテキストから別のメッセージを産んだ。
このように考えても良いかもしれません。

 

 

さて、ここまで見てきたように5人は、
完全には具体的な目標を共有せずとも、
その親密さを高めてきたと確かめられます。


このことは、彼女たちが、
ハイコンテキストのメッセージを活用したり
うまく読み解いたりしたことに加え、
以下の意味を持つでしょう。


それは、彼女たちが、隠れた日常の拾い集めるという
意識を共有してきたということです。


これはまさに、
キラキラドキドキの抽象的な意味そのものです。

 

日常の発見というキラキラドキドキの抽象的な意味、
そして複数の意味にまたがるその具体的な意味とが、
新しい可能性とその充実感とを産み出して
5人を束ねてきているわけです。

 

また、後にまた示しますが、
このキラキラドキドキは、
可能性を開くこと自体を目標にするために、
現在を未来に延長していく効果もまた
持っていることでしょう。

 

しかし、Poppin'Party を束ねていくのは
このキラキラドキドキだけではありません。

 

「一緒にやりたい」という想いから
日常の可能性を丁寧に拾い集めることで
メンバーが一人また一人と加わってきたのち、
「夢」が改めて、重要な原動力として現れます。

 

Poppin'Party を結びつける夢

 

ここで、前述のように夢の意味には、
文字通り夢一般という意味と、
SPACE でのライブ、主催ライブ、
武道館でのライブといった
具体的な夢という意味との、
両方の意味があると理解するべきでしょう。

 

キラキラドキドキと同じように、
具体的な夢の解釈も時間とともに変化しますが、
しかしその変化の速度はゆっくりです。

あるいは、2つの具体的な夢を掛け持ちしない、
とも言えるかもしれません。

 

1期後半において5人は、
沙綾が「ここでライブしたいな…」と言うように、
改めて SPACE という具体的な夢を
確かなものとして皆で共有し始めます。

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BanG Dream! 1期9話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad


SPACE 合格を経て SPACE に出演するという
具体的な目標に向けて5人は、
個々に練習を重ねるばかりではなく、
夢に向かって何が出来るか理解する形でも
それぞれの姿勢を獲得していきます。

足りない箇所を自発的に発見していくたえ。
観客の視点を自らのうちに取り込むりみ。
「今は本気で出たいと思ってる」と
決意を新たにする沙綾。

 

有咲は香澄の代理で皆を引っ張る役目をし、
また香澄との会話の中で「楽しいよ!」と
いうことをついに打ち明けもします。


「みんなのもの」になった夢を通じて、
それぞれに活動の意味を確かめあったり、
お互いに出来ることで助け合ったりしていき、
それでしか叶え得なかったであろう関係性を
形に変えていきます*4

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BanG Dream! 1期11話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

SPACE という夢を叶えるための条件は、
「やりきる」こと。この言葉の意味は、
ゆりが「答えなんて、みんな違う」と言うように、
明確に定まっていないところがあります。

 

しかし確実なのは、この難解な課題に向かって
夢を追いかけてきたからこそ、
「合格だ」と言われて思わず涙し抱き合う、
そういう5人の時間が共有できたのでしょう*5

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BanG Dream! 1期12話/©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad

 

以上で見てきたように、
夢には強い推進力があり、
それが関係性の原動力となることを、
言葉の読解とともに確認してきました。

 

しかし、夢のポジティブな面だけでなく、
その影についても考えねばなりません。

具体的な夢というものは、
強力に引き合わせる力を持つと同時に、
終わりのときを持ってしまいます。

ときは変わって3期終盤、
その大団円を前にして、まさにこのことが、
最大の葛藤として立ちはだかってきます。

 

このように、具体的な夢がリスクとなる、
そんなときにおいてこそ、
前述のキラキラドキドキが再び
関係性を取り巻く重要な要素として
その役目を果たしてくるでしょう。

 

逆に言えば、3期13話を通じてこそ、
Poppin'Party にとっての
夢とキラキラドキドキとの位置関係が
はっきりと理解できてきそうです。

 

いよいよ、3期の理解に入りつつ、 
夢、キラキラドキドキ、そして5人の関係性を
互いに結びつけてその理解を目指します。

 

 

先取りの未来から地続きの未来へ

 

3期に入ると、
勝戦を武道館に置くその大会名が
文字通り「BanG Dream!」であることからも、
再び夢が前面に出て感じられます。

 

3期1話ではセリフとしても現れます。
りみの「武道館なんて夢みたいだもんね」に対し
香澄は「だから…バーン!ドリ!」と
指で発泡のまねをします。
少しの会話のあと有咲は
「バンドリってそういう意味か」と納得します。

 

また、夢に向かう姿勢を作ることを、
2期で得てきた自信もまた助けていることでしょう。

 

Soitan さん2期11話考察の記事を手がかりに
2期を振り返ってみます。すると、
それぞれが別の夢を持てるように下手に許すより、
自分たちが共通の夢を持とうとするほうが、
自分たちにとって良いという帰結を得ています。

 

そうするとますます、5人の中で、
同じ具体的な夢を持つ自信が持てているはずです。

 

 

夢に向かうというのは、言ってみれば、
離れた未来を先取りする行為でしょう。

 

しかしそれは言い換えると、
投げかけた先の未来である当日が来るとき、
夢が終わるという意味になります。

 

PV 作りにおいても連日のライブにおいても、
BanG Dream!」で2位内のバンドのみが
招待される武道館公演に向けて、
具体的に力を入れる Poppin'Party。

 

このように夢に力を入れてきた分だけ、特に、
PV の撮影や編集でも力を尽くしてきたりみは、
不安を感じ始めてしまいます。

 

ある意味では、
夢のリスクの面があらわになってしまいました。

 

しかし、ここまで見てきたように、
Poppin'Party はそれを乗り越える武器を、
これまでに熟成させてきています。

ひとつはキラキラドキドキです。

 

キラキラドキドキは何よりもまず
ライブの場において輝きを増すものの、
何のライブでどう振る舞うかを
完全に決めなくてもなお現れるものでした。

 

2期の念願の主催ライブにおいても、
曲順を変えるという柔軟さを発揮しましたが、
3期の武道館決勝においても、
出場後に予定外であった円陣を入れるという
予定調和から逃れる試みをします。

 

春剣防具さんの3期12〜13話考察を拝見すると、
まさにこの円陣をしたときの観客の反応が
Poppin'Party にとっての救いの1つになります。

間髪入れず香澄は、
改めてキラキラドキドキを宣言します。

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BanG Dream! 3期13話/©BanG Dream! Project

ここで歌われるミライトレイン、そして
その歌詞はかなり示唆的です。

 

夢が未来の先取りであるのに対し、
キラキラドキドキは現在の可能性を
探るものでした。
ミライトレインの歌詞と合わせて考えると、
恐らくキラキラドキドキは
現在を未来に向かって
地続きに延長できるものなのでしょう。

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作成は筆者。

「道は未来へと続く」
電車が地続きの道を行くように、
この歌う現在という時間もまた未来へと
延長されていくように感じさせてくれます。

「この夢の先まで 一緒に進んでいこうね」
夢が達成された先にも未来を延長でき、
関係性もまた続けられることが
ここで改めて確かめられます。

 

こうした演奏する時間の延長線を確かめつつ、
5人は〈いま、ここ〉を楽しむ姿勢を
うまく作れていったようです。

 

この〈いま、ここ〉こそ、
キラキラドキドキの真髄でしょう。

 

演目の後、りみは、

ライブ、めっっちゃ楽しかった…!ありがとう

と、感涙の笑顔を浮かべます。

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BanG Dream! 3期13話/©BanG Dream! Project

夢をうちぬいてしまっても、
それは未来に続くものであるということ。
〈いま、ここ〉が楽しいということ。
それに改めて気づくことで、
りみたちは「最高のライブ」ができたのです。

 

 

もちろん、この瞬間に至ることができたのは、
キラキラドキドキのお陰だけではなく、
やはり夢を持ってやってきたからでもあります。

 

"夢を撃ち抜く瞬間" を目指してきたからこそ、
そのキラキラドキドキが現れてきたのです。

 

さらに言えば、
武道館出演を目指して PV とライブに尽力し
結果的に知名度を高めてきたであろう
Poppin'Party は、円陣のときに
観客の大きな反応を得ることができました。

これも、夢を起点として、結果的に
キラキラドキドキを得るに至った一側面でしょう。

 

そして、キラキラドキドキの代わる
もう1つの武器、夢一般という意味での夢。

夢一般は、この夢を単体で終わらせず、
さらにまた別の具体的な夢を
もたらしてくれることでしょう。

 

そうであるならば、
夢を実現した喜びは、その次の夢へときの
原動力としても機能するでしょう。

Roselia の歌詞はそれを示すかに見えます。

乗り越えた先の景色を 美しいと知るからこそ 前を向いて進めるの

 

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BanG Dream! 3期13話/©BanG Dream! Project

 

最後に、関係性について考えます。

夢とまでいかないまでも数々の具体的な目標、
そしてキラキラドキドキを掲げることが、
関係性と信頼関係として結実してきました。

 

その関係性はもはや夢を担う上での
それぞれの役割を離れて、
関係性自体盤石なものになっていることでしょう。

 

Soitan さんのこちらの記事のご指摘によれば、
関係性は互いの役割をきっかけとして産まれる一方、
最終的に関係性は役割を超えて成り立つわけです。


彼女たちを結びつける基盤は、
武道館を目指す協力関係だけじゃない。

もちろんこのことは
1、2期から分かっていたことですが、
重要なのは、夢が関係性を作るだけじゃなく、
関係性がまた夢を作る方向性も
ありうるということです。

 

「夢を撃ち抜く瞬間に!」で歌われるように、
関係性と信頼を持った彼女たちは、
「何度も (唄おう) 弾けて (飛びだせ!)」
「続いていく 明日のうた」
とあるように、また新しい歌を通じて
新たな夢とキラキラドキドキを
紡ぎあげていくことでしょう。

そしてまた逆に、
1期5話では開始タイミングで、
2期11話では Returns の歌を通じて
音楽で暗黙の確かめ合いをしたように、
さらに再び、その歌と暗黙のメッセージを
関係性の維持と発展へと昇華させていくでしょう。

 

まとめ

この記事では、Poppin'Party を読み解くため、
以下のことをしました。


言語学語用論を頼りにしながら、
少し解釈の難しい言葉である
「夢」「キラキラドキドキ」を読み解き、
そのことを通じて5人の関係性、および
5人がいかに武道館ライブを乗り越えたか
考察してきました。

前半では、語用論が教えてくれることを、
2つピックアップして確かめました。


言葉が抽象的な意味と具体的な意味とを
互いに行き来できること (シネクドキー)。


言葉が意味や解釈を文脈に応じて変えるとき、
ある法則があること (協調の原則)。

 

これらの考えは、 BanG Dream! を理解する上で、
2つのレベルで役立ちました。


ひとつは作品内の用語についてで、
重要な概念である夢、キラキラドキドキ
複数の意味を持ちうると確認できた点です。

 

もうひとつは、作品内の会話についてで、
一見すると曖昧なやりとりが、
コミュニケーションとして成立するばかりか、
それがかえって親密さを強めている場合がある、
そのような理解を見出せた点です。

 

協調の原則の使い方が洗練されているためなのか、
5人は相手のハイコンテキストを理解し
よりよい働きかけをし続けてきたのです。

 

具体的には Poppin'Party は、
(キラキラ) ドキドキという言葉を
固定した意味にせずに柔軟に変化させ、
変わるがわる別の意味で使用/解釈します。
これを通じて、
典型的にはたえ加入のいきさつで
披露ではなく共演を選び直したように、
新しく入るメンバーと一番楽しく過ごせる方法を
柔軟に選びとってきたのです。

キラキラドキドキは、
日常の可能性を探る意味を持つと同時に、
あるライブの瞬間をも指すことができると
理解できてきました。

 

一方、夢という言葉もまた
夢一般と具体的なライブ会場という
複数の意味を持つと分かりました。

 

うち、具体的な夢は、
メンバーを結束させる強い原動力となりました。

 

具体的な夢は達成の瞬間があるため、
3期の終盤でそのことがネックとなり、
不安として現れてきてしまいました。

 

ここにおいて、キラキラドキドキという言葉、
それが、日常を拾い集めるという意味と、
いまこのライブを楽しむという意味、
その両方の意味で、不安を乗り越える
5人の大きな支えとなりました。

 

加えて、夢の持つ夢一般という意味も、
5人が未来を思い浮かべるための
味方になったと考えられます。

 

少し図式的に言えば、
遠くの夢が近くに来てしまったとき5人は、
現在を楽しむということを未来に
地続きに引き伸ばすという形で、
最高のライブを成功させつつ、
その先のことを見出したのだ。

このように理解できるのではないでしょうか。

 

 

課題とあとがき

残された課題も多くあります。


ほとんどの議論で Poppin'Party に当てたため、
他のバンドについては考察ができていません。

 

3期 OP であるイニシャルの読み解きや、
1期の「やりきる」、さらには
小説版でも見られる「ホシノコドウ」について
さらなる分析が必要になるでしょう。

 

アニメが2次元から3次元になったことも
アメニティズムの平面性を考える上で
考えて行かなければならないでしょう。
電車というモチーフは、
対立するアメニティズム、シネマティズムの
両概念において重要な意味を持ちます。

 

キャラクターとリアルライブの関係性も
これもまた考えねばならないでしょう。

 

リアルライブが先行し、
それを追うような形でアニメが進むことは、
BanG Dream! の特徴として特筆に値します。

 

あとは事例の数です。

今回使った概念についても、これは
もっと多くの場面の説明に当てはまるはずで、
たえ以外のメンバー加入についても
より具体的に活用するべきだと思います。

 

 

 

ただ今回、そうした課題は残しながらも、
夢、キラキラドキドキおよび
その位置関係については、
既存の議論のお力をお借りしつつ、
さらなる解像度にできたのではないか、
と思います。

 

個人的にはもう1つの推しアニメである
ラブライブ!サンシャイン!! との違いも
クリアに出来たことが満足度が高いです。

 

以前の記事では、サンシャイン!! の「輝き」と
BanG Dream! の「キラキラドキドキ」の
類似性は整理できたものの、
違いはほとんど議論できませんでした。

今回は、輝きが具体的なライブへと
当てはめられることが少ないのに対して、
キラキラドキドキはその当てはめが
多く行われるという違いを明らかにできました。

 

さて、こうした残された課題に対し、
私自身ももちろんさらなる考察を挑みますが、
私の記事を参考にして頂いてこれらのことを
考察されるかたがもしいらっしゃれば、
冥利に尽きる思いです。

 

いや…私の記事が参考になるかに関わらず、
是非とも知りたい課題ばかりですので、
考察されるかたがもしいらっしゃれば
それはいずれにしても嬉しいことです。

 

 

それではここまで、
ありがとうございました。

また、何らかの夢かどこかで
お会いしましょう。

 

 

参考文献

日本語研究のための認知言語学

日本語研究のための認知言語学

  • 作者:籾山 洋介
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

出版社サイト

 

 

 

解いて学ぶ認知構文論 (認知言語学演習)
 

出版社サイト

 

 

シネクドキリンクとメトニミーリンク

http://implicature.net/pdf/okamoto_KLCAM2007.pdf

最終アクセス 2020/04/26

 

 

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anime.bang-dream.com

 

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*1:以上の例およびシネクドキーが成立する条件については『日本語研究のための認知言語学』第5講より。

*2:シネクドキーは比喩的な場合を指す概念なので、恐らくこれは厳密にはシネクドキーではないでしょう。しかし意味の伸縮という意味では同じ考え方が使えます。

*3:この準則およびグライスの協調の原則については『解いて学ぶ認知構文論

*4:『アニバタ Vol.18 [特集]バンドリ!』の「歌えない私/歌えるあなた、飛べない私/飛べるあなた」においてすぱんくtheはにーさんは、以下のようにご指摘しています。香澄の欲望に対して4人は道具的に追随してきたのだが、香澄が歌という身体性を失うことで、他の4人も身体性を得ることができたのだ、と。ここでもし、身体性こそを夢の源泉とするならば、この場面でようやく夢が「みんなのもの」になった、という考えをすることもできます。

*5:やりきる、の意味はやはり難しく、なかなか「これだ」という風に理解できないところがありますが、CHiSPA もまたそうであったように、まさにこのような光景になれることこそが、合格の条件だったのかもしれません。