一人のかわいさからコミュニティーのカワイさへ アニガサキ2話感想

こんにちは。センケイです。

 

いきなりですが、最初にこのブログの方針について、少しお知らせします。

私は、色々な本で見つけた話を持ってきて物語を読み解くのが、自分の趣味や文章に合っていると思っているので、いつもそんな風に参考文献を載せた記事を投稿しています。

ですが、これはある意味クセでやっていることなので、決して「やっぱり参考文献が充実してないと」みたいに思っているわけでもありません。

 

なので、願わくば、私の文章をちょっとしたプレッシャーに思わないでくださったら、幸いです。

その意味も込めて、今回からは参考文献の載せかたはもう少しカンタンなものにとどめたいと思います。

 

 

また、タイトルについてです。

ぶろっくさんの記事や、pixiv 百科事典で見られるように、アニメ作品「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」を「アニガサキ」と呼ぶことが主流になってきていますので、当ブログに置いても二話目以降はこれに沿おうと思います。

 

 

 

さて今回の二話、実は正直なところ…、以下の3つの理由から、初見ではそこまで強い感情移入ができないでいました。

一話が衝撃的すぎたため。中須かすみが自らのかわいさを追求して戦う話を勝手に期待していたために、ちょっとこじんまりとして感じられたため。そして、かなり個人的な話なのですが、寒暖の差が激しかったために少し疲れていたため。

 

しかし、何度か見返していくうちに、この二話もまた大変エモーショナルな回であり、3度めには、一話と同様足元から宙に浮くような打ち震えがやってきました。

そして確かに間違いなく、かすみが「かわいさ」を追求して「戦う」話でもありました。

 

そして見れば見るほど、悪ぶっているかのように振る舞うかすみが、実は「みんな」のことを考えて動いている、そのことが言葉の端々からうかがえてくるのです。

 

さて、この回を振り返るには、やはり「かわいい」とは何かを考えることは避けられないでしょう。

 

 

それぞれのかわいい

 

「かわいい」という語はご存知のようにかなりの多義語で、ひとことで言い表すのは困難を極めます。が、『カワイイ社会・学』や『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』を参考に、そのあらましを見ていきましょう。

 

歴史的に見れば、竹久夢二さんや中原淳一さん、内藤ルネさん、水森亜土さんの描くような少女像や世界観に培われ、そしてファッションやグッズ、あるいはサンリオなどが描くファンシーさとともに広がってきたものと言えるでしょう。

 

近年ではその言葉の広がりはかなりのもので、『カワイイ社会・学』の節の区切りでは「和」「京都」「ピコピコ」「ナチュラル」「手づくり」「ごちゃごちゃ」、さらに『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』の章では女児向けゲーム、夏フェス、ロック、歴史、ハロウィン、メイドカフェ、島と、かなり豊かな広がりを見せています。

 

歴史的な意味、あるいは辞書的なコアの意味からすると、小さいもの、くみしやすいものを愛でてさす言葉であったことでしょう。しかし、現代における上のような意味の広がりは、とてもこの辞書的な意味だけでは回収できそうにありませんね。

 

多義ゆえに、意味の取り違えのあるシーンがありました。

かすみが「かわいいスクールアイドル同好会」を目指すとしたとき、上原歩夢は「だったら……、やろうかな」と答えます。

歩夢が一話で思い描いた「ピンクとか かわいい服だって、今でも大好きだし 着てみたいって思う」というかわいさは、おそらく伝統的な意味のかわいさにあたるでしょう。かすみの言うかわいさも、一聴する限りでは伝統的な意味に聞こえるため、目指す方向性は重なるように見える。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

しかし実際には、思い描いているものは違っていて、このため歩夢はかわいいとは何かを見失うところまで追い詰められてしまいます。

おそらく、より正確に見極めるなら、かすみの目指したかわいさは、〈アイドル〉的なものであったのかもしれません。つまり、メディアを通じているにも関わらずまじまじと凝視させる存在感を持つもの。もっとカンタンに言うと、キャラ的なもの*1。そういう意味の「かわいい」であったのでしょう。

この間接的な証拠として、かなり早い段階から文字通りメディアを使った活動、いわゆる「PVを作ろう」が始まります。指先や首の細かい動きまで洗練されているかすみが見られます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

さて、「かわいい」が分かってきたところで、めでたく論を進められそうになってきました。

しかし、ちょっとお待ちください。かすみの使う「かわいい」には、さらに広い他の意味も含まれていないでしょうか?

これこそが、個人的に、この回の真髄であるように思うのです…!

 

みんなのためのカワイイ

 

自分も優木せつ菜と同じ過ちを犯してしまったと気付き、乗り越えていくかすみの成長譚は、まさに知られている通りです。

しかし、かすみが反省したのは、単に二の轍を踏んだからだったのか。かすみが旧同好会にて「こんなの全然かわいくないです!!」と叫んだのは、単にアイドル的でないことに抵抗したのか。

私は違うと考えています。

 

「かわいい」の意味をさらに捉えるため、再び『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』を足がかりにしましょう。

同書によると、少なくとも女性文化において「かわいい」は、「自分自身のアイデンティティと外界とを繋ぐ「橋」」、「支配文化への抵抗」といった社会的な意義をも持つことばだとされています。

 

さらには、「〈カワイイ〉感性を理解できる仲間たちとの継続的な共感確認」という、仲間を結びつける意味にもなるでしょう。

同書では『美少女戦士セーラームーン』の話題も登場しますが、『少女と魔法』が指摘するように、セーラームーンや『おジャ魔女どれみ』以降の魔法少女アニメは、登場人物たちの連帯を描くことで、視聴者を勇気づけるアニメになっているようです*2

 

これらを踏まえると、「かわいい」は、連帯、あるいは自分たちを勇気づけるものとしてのコミュニティを表す意味として用いれるのではないでしょうか。この「かわいい」を、以降「カワイイ」とカタカナ表記することにしましょう*3

 

 

かすみの目指す共同体

 

このカワイイを踏まえていくと、かすみが内心みんなのことを考えて動いていたということがよりはっきりと分かってきます。

 

高咲侑の「自分なりの一番を、それぞれ叶えるやりかたって、きっとあると思うんだよね」「探してみようよ」という提案を受けて「楽しいし、かわいいと思います!」と応じるかすみ。

「色んなかわいいもかっこいいも、一緒にいられる。そんな場所がほんとに作れるなら…」と希望を抱くかすみ。

 

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

「こんなの全然かわいくないです!!」のかわいいも、「楽しいし、かわいいと思います!」のかわいいも、かすみはあたかも「コミュニティが充実している」という意味のように使っていますね。つまり、先ほど述べた「カワイイ」に近い意味に。

 

かすみがせつ菜に抵抗したのも、必ずしも部員数が求められていない物語の中で部員を募ろうとしたのも、最初からコミュニティの未来を考えてのことだったのではないか。

かすみが目指したカワイイ同好会は、みんながそれぞれ目指し、連携して、生きていく力にできるようなカワイイ同好会だった。そのように思えてきます。

 

コミュニティの設立や運営を一度でもされたかたなら、それが大人であっても難しいことを痛感されていると思います。

コミュニティの幸福論』によれば、ややもすると負の側面、例えば「集団メンバーからの過度な要求」が出かねません。かすみはまさにこの点で成長を見せたわけですね。

しかしうまく「自分が動いて「縁」を作」れば*4、プラスの社会関係資本が生まれてくる。一般に言えば、信頼、ウィンウィン、経済、教育や心の支援といったかたちで。

 

自分が動いて縁を作る点においては、かすみはもう一つ強みを持っています。

初対面の侑と歩夢に対して、臆することなく相互理解をしようとする姿勢。アニメに限って言えば、このような積極性は珍しくないのかもしれません。しかしこのアニガサキの場合、歩夢や天王寺璃奈たちがリアルな人見知りの様相を見せるだけに、かすみの天賦の才能っぷりが際立って見えてきます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

かすみは、スクスタにおける歩夢のキズナエピソード4話で「素直でついつい構いたくなる雰囲気を持ってる」とされていますが、この点も一役買っていることでしょう。

 

自らのセンスを持って人と人を結びつけ、誰もが勇気づけられるカワイイコミュニティを作ろうとする。

その姿勢、勇気、果敢さ、めげなさ、優しさは、間違いなく Cutest の名に恥じないものでしょう。

 

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

いっぽうその頃、歩夢は…

 

スクスタのストーリーと一話とですっかり歩夢に魅せられてしまったため、しつこくも書いてしまいますが、この間に歩夢の見せたいろいろな表情や成長も見事なものでした。

 

スクスタにおいては、ここぞというときを除くとあまり内面を外に出さない人物、それゆえあまり「イジられ」キャラにならない印象だったので、表情豊かな二十面相っぷりが見られるのはなかなか新鮮です。(なんなら、理由もない罪悪感を抱きそうになるほどです…。)

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

しかし、ほのぼのとした日常だけではなく、最後には歩夢もまた一歩成長したさまを見せます。

かすみの思い描いたであろうアイドル性やキャラ性と、歩夢の正直な想いとを見事に折衷し、よどみなく屈託のない笑みを見せる勇姿は、素晴らしいものでしたね。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

あとがき

 

今回もここまでありがとうございました。

やっぱり、カワイイっていうのは意味の広がりが広くて、なかなか考えるのが難しいですね。しかし意味が広いからこそ、十人十色のニジガクのメンバーを包摂するのにぴったりな言葉なのかも知れません。「和」や「ピコピコ」には、彷彿とされるものがありますよね。

また、前回の記事でも少し触れましたように、ラブライブ!はみんなの勇気になる作品だと信じてやまないので、折に触れてそうした側面を拾い集められればと思います。

なお、ラブライブ!がみんなの勇気であり続けるためには、もう1つ避けて通れない話題もありますが、今じゃないかなと思いますので、また何かの折に書ければなと。強いて言えば、最近すごく勉強になったなと思うのが、『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』という本です。皆が傷つかないで好きを追い求めるように出来るためには、どういったことを考えないといけないかが痛いほど分かる本で、電子もありますので、もしちょっと興味を持ってくださったかたがいらしたら、手にとって頂けたら嬉しいです。

 

 

ちなみにスクスタのほうは、保育士とおぼしき渡辺曜が熊とともに有るようになってから、アピールで一強だったスノハレの南ことりとついに並んできました。

シールドや同作戦バフと八面六臂の活躍をするトリックスター黒澤ルビィとで、アクティブ属性の3強を形成しています。おかげでようやく、推奨スタミナ 50,000 台の曲でも S を出せ始めました…。アクティブ属性の PSYCHIC FIRE でのダンスなどが大変魅力的ですが、これについてもまたの機会に。

 

それではまた、カワイイのどこかでお会いしましょう。

*1:〈アイドル〉のこのような側面については、『アイドル/メディア論講義』。

*2:シリーズ構成の田中仁さんはプリキュアシリーズの幾つかにおいてもシリーズ構成をなさっていますね。

*3:『カワイイ社会・学』や『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』では、特殊な文脈を与えるときにカタカナのカワイイを用いています。特に後者の本では女性文化および「橋」としての役割をカタカナ表記しているため、ここでの用い方は、この文脈とも部分的に重なります。

*4:同書より。著者のかたが松本市の玄向寺で聞いたことばだそうです。