複素関数の中の小さなゲーム 開発日記

こんにちは。

 

いきなりですがごめんなさい、

SNS 等でもお知らせしましたが

以前の記事に誤りがあったため訂正しました。

 

 達成型(♦)、探索型(♠)、交際型(♥)、殺人型(♣)

について、

誤:サットン=スミスの分類

正:バートルの分類

 

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さて。

冬は手が寒くて PC がはかどりませんね。

 

そうはいっても世の中には興味深いことが

尽きないので、

1つ1つ進めていきましょう。

 

今回は、以前こっそりと公開したゲーム、

"The Defense on Complex" について、

つまり複素関数をギミックにした

ゲームについて、

少しその背景を振り返ろうと思います。

ゲームのリンク(無料ホームページレンタルです):

http://kyotorisuu.toypark.in/contents/game/leaf/

 

数学から感じるミステリアスな魅力

最初に言っておくと、

私はどちらかというと物理の人で、

かつ、その中でも大学院ではそれほど、

地に足着いた知識を固められては

いませんでした。

 

なので数学と言ってもまだまだ

山のふもとの方にいる状態で、

語れることも限られています。

 

ですが、

その入山口から少しばかり進んだ所で、

早くも謎めいた魅力に

エンカウントしました。

 

(といっても高校時代の数学は辛く、

 そこに辿り着くだけでも

 小から数えて10年以上ではありました。)

 

さて、その道の先に何があるのか

まるで予想もつかないが、

しかし大いなる何かを記述できそうという

予感だけははっきりと感じる。

 

その「枠組み」というか、

気付かずにいた空間そのものの歪みを

明かしてしまうかのような所?

(今改めてそのワクワクを言葉にすると

 このような表現になるでしょうか。)

そこに、惹き込まれたのでしょう。

 

大丈夫、おぼえてる。名前は… 二葉のリーマン

 

さて、複素関数については

入門書くらいは分かるようになり、

量子力学のための特殊関数などを

習っていたときのことです。

 

どうも複素関数では、

その平面上を1周回ってきても

同じ場所に戻らない場合

あるんですってね。

 

積分路などの詳しい議論については

ここでは深く立ち入らないことにします。

 

が、ともあれ

原点の周りを一周回って

戻ってきたつもりでも、

裏面に行ってしまうという事態が

あるわけです。

 

とにかくこの複素関数というのが

2次元を2次元へ写像するわ、

直角から直角にすることが

不思議と重要視されるわ、

積分の定性的な意味もいまひとつ

つかみきれないわで・・・、

 

しかし、謎が多いからこそ

魅了される側面もあるでしょう。

 

積分や直角、2次元という、

あるていど既知の道具で

説明されるからこそ、

 

かえってその未知の組み合わせに

幻惑されるのかもしれませんね。

 

しかし!これだけの謎に

満ちているにもかかわらず、

幸い、2次元上に描けるのです。

(少なくとも、基本的な構造が。)

 

絵に出来るというだけで、

分かりやすさは全然違いますよね。

 

であればこの謎めいた性質を

少しでも描いて表現したい。

 

裏面に行ってしまうという事態も

含めて。

というのが初動でありました。

 

遊びの定義における固定と自由

さて今回も例によって

 『ルールズ・オブ・プレイ ㊦』より

引用していくと。

 

遊びとは、

固定した構造の中の自由な動き、

と広く定義されるという形です。

 

このうち、この複素関数には

・固定としての構造の良さ

・自由(抵抗を含む)の魅力

の、双方がありありと感じられます。

 

順を追って書いていきます。

 

前回書きましたように、

数学や数理科学は、

色々な設定値およびその影響が

定量的に設定でき、

ゲームの題材として適切と思われます。

a16777216.hatenablog.com

 

( 一方でデジタルゲームのほうは、

 人の頭の中では覚えきれない、

 あるいは同時に処理しきれない量の

 中間値などを保持できるため、

 数理科学を表現する媒体として

 適切と思われます。

 

固定されたルールを持っている点で、

ゲームの要請を

デフォルトで満たしていますね。

 

今回は、通常の直線だけのグリッドでは

表現しえない、歪んだ2次元を

描けるという点で、

数学によって従来の固定されたルールが

拡張され得ます。

 

 複素解析という数学の一分野が

固定されたルールを生成するのに

有効である、ということを確認しましたが、

一方、面白さへの貢献はどうでしょう。

 

これは例えばカイヨワの4分類では

「イリンクス(めまい)」に近いと

思われますが、

イリンクスの説明としては

身体感覚が主に強調されているため、

ここでは関連性の推測にとどめます。

 

ここで言いたかったのは、

方眼紙のように規則的な

正方格子では表現し得ない、

歪んだ操作感がもたらしうる魅力です。

 

しかし、ここまでの所だけであれば

単に操作が難しいだけのゲームに過ぎず、

「二葉のリーマン」が手続きとして持つ

特殊性も、ほぼ反映されていません。

 

そこで、多少安直ではありますが、

「裏面」に行ってしまった場合には

登場人物の性質が変わるように

してみます。

f:id:a16777216:20180203181003p:plain

パックマンをヒントにし、

条件を満たしたときのみ、

ここでは互いに裏面にいるときのみ、

敵勢力を撃破できる設定にしています。

 

ホントは複素積分の直感的な意味とか、

微分可能の何たるかとか、

やりたかったですが・・・、

今はまだ断念。

 

さて、これでゲームの骨格が整いました。

しかし、これでほんとに面白いでしょうか。

 

これがゲームであるために・・・

単に敵から逃げれば死なないのなら、

上図のように苦労して

敵勢力を撃破する必要があるでしょうか?

 

いつも引用しているイェスパー・ユールの

6分類を用いるまでもなく、

努力が結果にいい影響を及ぼすことで

面白くなるのは当然と言えましょう。

 

ここでどうせなら時流を生かし、

ゾンビ論の議論を反映してみましょう。

 

『メディア・コンテンツ論』の岡本健さんや、

『新世紀ゾンビ論』の藤田直哉さんの

議論を踏まえ、

ゾンビ映画のフォーマットを一般化して、

「攻め込まれている拠点を防衛する」

ととらえれば、

 

映画の他にもマンガ・ゲームに一貫し、

相当数の作品が該当する、

近年の流行りと言えるのでは

ないでしょうか。

 

これも安直な援用にはなりますが、

拠点に攻め入られたらアウト、

というルールを追加します。

 

これで、努力して敵を妥当しに行く

積極的な動機が出来ました。

 

かくして、曲がりなりにも、

数学的背景、文化的背景を参照しつつ、

ゲームとしても動機を持てるものに

なったのではないかと思います。

 

数学へのコミットメントとしても、

・2周しなければ戻ってこれない

・歪んでいても直角が直角のママであれば、

 元の空間に復元できる

という、ほんらい直感から遠い概念を、

体験のレベルにできたのではないかと。

 

2つ目のほうを補足すると、

 このゲームにおけるグリッドが

 ゆがみを持ちながらもそれぞれ

 直角に交わっているところに注目ください。

 ざっくり言えばこの性質のおかげで、

 上下左右キーで異なる場所に移動すれば、

 画面上でも対応するどこか別の場所へ

 移動することができ、かつ、

 画面上の位置に対応して、

 手元の上下左右で操作できる元の位置も1つに定まる。

 ということになっています。)

 

大学生の頃に感じたあの驚きも、

多少なりとも形にできたかなと。

 

今後の課題としては、

自分としても直感的な理解が難しく、

何とか表現したい積分値。

あるいは微分可能性

 

あるいは、集合・位相や体論など、

他の数学の基礎概念の体験化。

 

もちろん自分一人では

すべては着手できないため、僭越ながら

後続のクリエイターのかたが

現れるのに貢献できればと思います。

 

それではここまで、

ありがとうございました。

 

改めて、そのゲームのリンクです。

http://kyotorisuu.toypark.in/contents/game/leaf/

 

作り方は JavaScript と enchant.js ですね。

 

参考文献

物理のための数学入門 複素関数論

物理のための数学入門 複素関数論

 

出版社ページ: 

物理のための数学入門 複素関数論 / 有馬 朗人 神部 勉 著 | 共立出版

 

物理のための応用数学

物理のための応用数学

 

出版社ページ:  

<書籍紹介> 物理のための 応用数学(小野寺嘉孝 著)【物理学】

 

ルールズ・オブ・プレイ(下) ゲームデザインの基礎

ルールズ・オブ・プレイ(下) ゲームデザインの基礎

 

出版社ページ:

SBクリエイティブ:ルールズ・オブ・プレイ(下)

 

ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム

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 出版社ページ:

half-real - New Games Order, LLC.

 

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