Moonrise Belief 考察 アイマス 900 曲予習して世界が変わった曲②

フェスまでの間に Spotify のシャイニーカラーズの 134 曲も無事聴けたので、しれっとタイトルを①のときから変えて 800 曲→ 900 曲としています。センケイです。

 

アイマス曲では、音楽ゲームの作曲でご活躍されているかたの楽曲提供もちらほらと見られます。

や、「アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism」や「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」ももちろん音ゲーではあるのですが、ここでは音ゲーという場合、特にゲームセンターに筐体のあるような音ゲーのことを特に指すことにします。

具体的な作曲家さんとして例えば、KanadeYUK さんたちやゆよゆっぺさん、ARM さんなどは、私がメインで遊んでいる音ゲーである GITADORA (GuitarFreaksDrumMania の 総称) と重なる作曲家さんになりますね。

 

今回記事として書きたいのは、大和さん作編曲の「Moonrise Belief」(天空橋朋花 (CV.小岩井ことり)) です。

これは曲の構成がかなり凄くて一目惚れ?でした!

とにかく一言でいえば音ゲーのラスボス曲そのものという構成!

それもそのはず、大和さんは GITADORA に対し、2021/04/21 から 2022/12/13 まで稼働した代である HIGH-VOLTAGE において、事実上のラスボスであった「THE LAST OF FIREFACE」をご提供されているのです。

もう少し詳しく説明しますと、GITADORA においてはプレイしたときの成績に応じてアンコールステージという隠し曲に進出できるようになっており、このような隠し曲は概ね大変難しく、ボス曲という位置づけになるようになっています。

その中でも、最新の直前の世代 (GITADORA は大体1年〜1年半ごとにメジャーアップデートがあり、世代が変わります) であった HIGH-VOLTAGE の最後の隠し曲が上記の大和さんの曲でした。

大和さん作曲の曲はその代の最後のボス曲であり、非常に難しく複雑でカッコイイ曲で、まさにラスボスであったといえるでしょう。

 

また歌唱の小岩井ことりさんについても、フォロワーさんの話によるとヘッドフォンを自作されるほど音に対して高い解像度で向き合ってらっしゃるかたらしく、音の構成に沿った非常に繊細な歌い方をしてらっしゃるのではないかと想像しています。

また小岩井さんは HARDCORE TANO*C での楽曲もあるという意味で音ゲーの作曲家さんたちの曲に親しんでらっしゃるとも思われますし、論文「レアなモーラを含む日本語歌唱データベースの構築と基礎評価」の共著者であることからも、音の感性に秀でてらっしゃるのではないかと思います。

cir.nii.ac.jp

さて、そんな大和さんと小岩井さん、そして歌詞は真崎エリカさんというこの楽曲ですが…。

…とその前に、前回の記事も載せておきます。

a16777216.hatenablog.com

それでは Moonrise Belief、参りましょう!

 

既にもうほかの曲と一線を画しているイントロ

まずはイントロからこれは通常のアイドルソングとはかなり違うぞというところにまずは圧倒されます。

sasakure.UK さんを彷彿とさせるような未来感のあるシンセサイザー。それにドラムの音が、全体的な頻度こそ多くないものの、打たれるときには一打で二度打って聞こえるようになっていたり、かなり三連符になっていたりと繊細な配置になっています。

するとどうでしょう。少し音数が増えたと思うと、まずこれは何拍子なのかとなかなか掴めない複雑な構成に突入します。

 

氷のような硬い空間にこだまするようなメロディ。これと、地を這うようなメタリックで重いギターとベース。このようなギャップのなか、3/4 拍子かと思わせておいて急に流れを壊してやり直すかのように1小節だけ 2/4 拍子が挿入されます。

さらに 7/8 拍子が続くというオタクのグルーヴをあざ笑うかのような変拍子で畳み掛けてきます。

 

歌詞と共鳴していく1コーラス目

A メロに入ると少し落ち着き、ドラムのリズムこそプログレッシヴな細かい構成ではあるものの (ハイハットの音作りも絶妙で震えます)、しばらく安定して 3/4 拍子が続くと同時に、音の種類もぐっと絞られて静かな構成になります。

ここの音の隙間にスッと入るこんでくるヴォーカルが見事。歌詞の「まるで呼吸が始まるように」を完璧に体現しているような曲の作りに震わされます。

 

 

少し、歌の意味の話に寄り道しましょう。

まず天空橋朋花という人物は、ピクシブ百科事典によると、周りから自然に好かれてしまう人物であり「聖母」として慕われているが、好かれるあまり自分が争いの元になってしまうことを危惧して、平等に愛を振りまくためにアイドルになった人物、ということだそうです。

カワイイからという理由でファンを「子豚ちゃん」と呼ぶなど、ちょっと風変わりな人物でも有るようですね。

 

しかし、同じくピクシブ百科事典の Moonrise_Belief というこの曲の記事によれば、聖母という役割を無批判に受け入れているのではなく、意外にもそこには迷いや葛藤があるようです。

 

また、ホッパーさんのご感想記事「ミリオンライブのソロ曲CDM@STER SPARKLE2 06」の感想」によれば、この曲は迷う曲というだけでなく、自らの意志で選び取る曲でもあるようです。

この先の歌詞に、それが秘められていることでしょう。それも併せて読み解いていきましょう。

 

さて曲に戻ると、B メロは、既に歌が始まっているにもかかわらず臆面なく拍子の変更が入ります。またも 7/8 拍子…アイドルソングらしさから大きく離れた変態的な構成 (めちゃめちゃ褒めてる)!

浮遊感のあるシンセ、きらきら輝いているハイハットの音。天に昇らされるかのような響きです。

しかし一方で、かなり重たいギターとベースの音が再び入り始めます。こちらはまるで大地に束縛されるかのよう。

 

ここで少し歌詞に目をやってみると、この B メロでは「慈愛、心服、まとい続けて」とあり、続く1サビでは「光の影で微笑った月よ / Destiny(諚) それは悠久の真実? それとも…」とあります。

 

無批判にまとい続けてきたと思っていた慈愛、これが運命でも永遠でもないのかもしれいない。

ではそれに代わるオルタナティブが何なのか…ここでははっきりわかりません。

 

このまま、サビの歌詞について入っていきましょう。

偽りじゃない 迷いなくわたし

けれど星の耀きに呼ばれ

生まれくる感情

恐らく「偽りじゃない」というのは、聖母たる自分の役割というのが、周りから無理にやらされているものではなく、自ら望んでやっているものだ、ということなのでしょう。

これに対して、「けれど」とあります。この先が、ハッキリとはわからないものの、もう一つの選択肢ということなのでしょう。その選択肢は「星の耀き」「生まれくる感情」とあり、かなりポジティブなもののようです。

 

メロディと音素の話に戻りましょう。サビの「光の影で」という歌詞と同期する形で、ぱっと明るい曲調に様変わりします。

歌詞に迷いが現れるのはむしろサビなのですが、迷いを口にすることでかえって気持ちが軽くなったのか、視界がクリアに感じられる爽快な音の作りに。拍子もスッキリとした 4/4 拍子です。

この明るさや視界のクリアさは、「星の耀き」というポジティブさとよくシンクロして感じられます。

まてよ、月と星…?これは何かありそうです。

まだ、ホッパーさんのご指摘にあった決断については見えてきていないので、2サビ以降でまた星については深掘りしてみましょう。

 

ここまでの理解をまとめます。

  B メロ サビ
メロディ 軽さと重さの対立 明るくクリア
リズム 七拍子、複雑 四拍子、理解しやすい
歌詞 聖母のまっとう 聖母への迷い、しかし何かに導かれポジティブ
モチーフ

メロディとリズムは B メロに葛藤が現れていますが、歌詞では葛藤は少し遅れてサビで現れてきます。しかし、口にできない葛藤をやっと表に出せたことで楽になったのでしょうか、サビでは今度は明るい曲調になる、という流れでした。B メロでは、言えないながらも内心、葛藤を持っていたのかも…?

このように時間差、あるいはもしかしたら歌詞からは隠されたニュアンスがありつつも、大きくくくれば歌詞と曲調がかなり共鳴しているといえるでしょう。

 

再び驚かされるのはサビの直後の間奏。

解釈が非常に難しいのですがメロディだけ追うと 5/8 拍子→ 3/8 拍子→ 5/8 拍子→ 3/8 拍子→ 5/8 拍子→ 3/8 拍子→ 6/8 拍子に聞こえる…なんじゃこりゃ?笑 (褒めてる)

さらにこのあと続く大盛りあがりの大サビ。ってか大サビあったのか。

曲名のリフレイン、そして浮遊感がピークになったところで伸び上がる「今」!決まった〜!!

この伸びる歌われかたが大変美しいのですが、ここでさらに加わるイントロと同じ 7/8 拍子!宇宙へ飛んでいってしまいそうだ……。

 

ドッキリは終わらない、さらに仕掛けられた2コーラス目

さて、これだけトリッキーなリズムが続いた後は流石にその繰り返しでしょうと油断すると、2回目の A メロがこれまた凄い。

3/4 拍子と 6/8 拍子 (テンポは 4/3 倍) のポリリズムになってませんかね…?

詳細は省きますが、2 回目の A メロでは1小節を6つの塊に割っている 3/4 拍子だったのが、2 回目ここでは 1 小節を 4 つに分解する 6/8 拍子を混ぜ込んできており、一瞬ドキッとしますが 0.5 または 1 小節終わるごとに周期が重なって落ち着くという不思議な経験をさせられます。

3/4 拍子と 6/8 拍子のポリリズムの様子。筆者作図



B メロは1コーラス目と同じ感じですがやはり壮大。また、ここではついに B メロでも迷いをあらわにした歌詞が登場し始めます。

そして…2コーラス目では B メロの上がり方が違う!

「流転に無かった夜に立ってた」…このようなフレーズが、悲痛な声で歌われていきます。泣き叫ぶようなギター。1サビで変化を受け入れていたのとは対照的に、ここでは苦悩が曲を支配しているようです。

 

1コーラス目では、星に導かれて新しいことを始めたい気持ちを心地よく受け入れていたようでした。

なのになぜここで悲痛が感じられているのか。想像ですが、「立ってた」というように不意にその立場に立たされていることによって戸惑っているのでしょうか。何度も聖母に生まれ変わる循環のはずが、急に輪から抜け出したとき。

特に夜には、独りそこに立つ孤独、そして本当に今までの役割から生まれ変わっていいのかという鋭い不安、こうしたものに襲われるということなのかもしれません。

そこで支えてくれるのが、恐らく星ということなのか。

 

そして…ここからがまた大変カッコイイんです。

新しいタイプの間奏が入ります。リズムはたまに 4/4 が入るもののおおむね 3/4 で落ち着いています。が、リズムが周期的になっただけに一層「やれることは全部やろう」という詰め込みが感じられ、これはこれでますますオルタナプログレ音ゲーラスボスという構成が感じられます。

捻れつつ似たフレーズが繰り返され、緊迫感を高めていく間奏。その最高潮での高速三連符…。

や、1コーラス目だけでもかなり凄いのですが、フル尺でさらに化けるタイプの曲ですね…。そして、ラスサビでさらに歌詞に新しい展開もあるのです。

 

星に身を任せる大団円

スッ…、としなやかに着地する C メロ。「My first day」の伸びも美しいですが、すかさずサビに入っていきます。

 

1サビはそこでついにアイドルソングっぽさを垣間見せたのが粋なところでしたが、他のパートのように複雑にうねるサビも見てみたい、というのも正直なところ。

すると、それに応えるかのように、今度はスローテンポのメタルみたいなアレンジのラスサビ!よくある落ちサビから一転して発想を変えた攻め方に、またも驚かされます (あと地味に飛びポもある…笑)。

静けさの中に調和して響くシンセ、そして時々挿入される重たい 24 分音符のバスドラム。こういう遅いメタルって神々しいですよね…

そしてそれがまさに C メロでも登場した「天啓」という言葉や、このサビでの「革命のように 目覚めた」といった言葉とかなり噛み合います。あとスローになると一層ヴォーカルの伸びがばっちりはまる…。

 

リズム、演奏、歌、歌詞、その全てが噛み合い、最後に向けて高まっていく中で…さらに1サビにはなかった大盛りあがりのメロディが。決まった〜〜!!

しかもここで言われているのが、後に分析するように非常に重要な「星の耀き身に宿したい」というワードですよ!

 

バリバリのプログレ然とした間奏を少し挟み、これでもかと畳み掛ける大サビ。しかも今度は繰り返しが多くなっている…。

無限階段を昇るように空へ昇り、「今」でまたイントロの…いや違う!ここでは1サビのときとは違うイントロのパターン使っている!いずれにせよ、また決まった〜〜!!

そしてこれみよがしな音ゲーのパターンでスッと終わっていく…。

 

目まぐるしく光るアップダウンに振り回される心地よさ。最後までアッと言わされるところばかりでしたが、そこで一連のストーリーになっているようであるところもまたたまりません。

では、ここまでまだ明らかにしてこなかった朋花の決断とは、どういうものなのか。

 

前述のように1サビでは、「星の耀きに呼ばれ」とあり、前後の流れからこれは聖母とは違う自分のことだ、と思われます。

ラスサビでは「目覚めた」「もし選び取れるなら」とありますが、では何に目覚めたのか。

それは、このあとに「星の耀き身に宿したい」とありますから、これは1サビと同じく「星」が関係する何かに目覚めたということになるでしょう。

 

朋花が自らのアイデンティティとし、しかも「迷いなくわたし」という形で積極的にまとっていた聖母という役割。それを置いてでもやりたいこととは何だったのか。

そこで、ハッとしました。この世界線で 765 の後輩的位置づけとして登場する 39 人のアイドルは「MILLIONSTARS」、つまり、百万の星のかがやきです (私が知る範囲だと、アニメ時空の第2話においてこの説明があります)。

急いでツイッター検索をしてみると、やはり朋花がこの歌で生まれ変わろうとしているのは MILLIONSTARS の星、百万のかがやきである、と、皆さんのご指摘がありました。

朋花が望んだのは、39 人でかがやく星であったのです!

それは聖母であることを信じてやまなかった自分さえ揺れるような、革命的に出会ったものであったのでしょう。そしてその「星の耀き身に宿したい」を放つ瞬間に全て調和するリズム、曲調、演奏!

 

 

無批判に受け入れてきた聖母という自分像。それを全く手放すというわけではないし、自分で納得してきたものではあるのだけど、それでもなお惹かれるアイドルたちの命の鼓動 (これも2話で説明があります)。そうした歌詞の美しさ。

その複雑にうねる感情を描いたものなのか、壮大な和音かつ、リズム、音素、歌がたいへん複雑に絡み合う、音ゲーラスボス曲としても全く遜色ない音数の、たいへん荘厳な曲でした。

これは想像ですが、朋花の想いとリズム、曲調とのシンクロも感じられました。迷っていたり内心迷いを隠していたりしているとおぼしき A, B メロでは、複雑または暗い調、3/4 や 7/8 が入り乱れる複雑な拍子で、あたかも心の揺れ動きが音楽で表現されているかのようでした。

これが自分の想いを口にするサビでは、すっと明るい調、天に昇るようなシンセの音、そして 4/4 のスッキリとしたリズムになり、これがアイドルらしくもあり、視界、そして夜空の星々が晴れやかに見渡せるような感じがしました。この解釈が合っているか分からないですが、そうでなくても明らかに曲調とリズムが何かを雄弁に語っているのは確かで、物凄く凝った曲でした。

(こういう曲もっともっと聴きたい…、難民になっちゃいますよ…笑)

 

ここまでの作り込みを見せられて、やはりアイドルマスター、底知れないですね…。

コンテンツの全てのライブを追うのは難しいにしても、少しずつ触れていきたい気持ちで燃えています。

 

さて、言葉だけではまだまだほんの一部しか魅力をあらわにできないよなとは思いつつ、少しでもこの曲の素晴らしさを言語化できたでしょうか。

それでは、ここまでありがとうございました。

第 12 話、私はまだ浴びていないのですが楽しみですね。

 

それではまた、光りかがやくステージの何処かにてお会いしましょう!