スーパースター!! 6話感想 助けられる以上に助けることができる喜び

「ショウビジネスはこころが弱くちゃやってけない」

f:id:a16777216:20210912005316p:plain

かげきしょうじょ!! 5話/©斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会

同じく今季に放送されているアニメ「かげきしょうじょ!!」では、周囲の評判がときに刃となることを強調するために、このセリフが放たれます。歌の優れた生徒に対し、アピアランスにも気を配らなければならないという文脈です。つまり、1つのことが得意なだけではなかなか生存していけないという意味にも取れます *1

 

ショウビジネスでは様々な淘汰圧が働く。特定の磨かれた武器のある結ヶ丘のメンバーたちも、もしそのような環境にさらされれば、じっくりと芽を出すための時間を取れなかったのではないでしょうか。

 

例えば唐可可は、アイドル活動開始時点では、体力がないキャラとして位置づけられており、歌も (実際の壇上では見事でしたが) 専用の訓練を受けてきた様子ではありませんでした。その意味で、試験を突破する形でプロとして活動を始めることは、難しかったのではないかと思います。

 

澁谷かのんについて言えば、かのんはダンスについて専用の訓練をしてきておらず、一方嵐千砂都は歌について専用の訓練をしてきていないように見えます。力を合わせればお互いを補い合えるかもしれない二人であっても、それぞれバラバラにプロとしてエントリーしたら、必ずしも舞台に残れなかったのではないでしょうか。

マチュアではないが、ショウビジネスでもない。そんなスクールアイドルという舞台こそ、そんな彼女たちが育つまで守る、聖域だったのではないかと思えてきます。(この辺考えていくと、すぐにキャッチアップ出来てしまう平安名すみれのキャリアもまた際立ちますね。)

 

しかし最初からプロを指向するわけではなくても、かのんにとってスクールアイドルを始めることは苦難の道のりでした。歌えないことは、プロでなくても、活動をしていく上で道を阻んでしまいます。

ですが、可可はそんなかのんを決して見放しませんでした。長い関係性には長い関係性の良さがありますが、会ったばかりなのになぜか意気投合していく関係性というのも、くすぐられるものがあります。当初は鬼ごっこをせざるを得ないような関係性だったのが、いつのまにか手と手を取り合う間柄になってきていたのでした。

 

今までのシリーズの伝統から行くと、センターポジがリーダーも兼ねる傾向にありましたが、ここでは可可その人が、情熱で人を引き入れ、そして部の設立が難しいと行った向かい風にも立ち向かう、リーダー然とした人物であったようです。

自分には出来るはずがない。出来ない理由がある。やらない理由がある。そんな人を放っておかず、「この人となら自分もやっていける…!」と、そう信じられるような光を与えてくれる人物だったのです。

f:id:a16777216:20210907233946p:plain

出典: ラブライブ!1期8話/(C)2013 プロジェクトラブライブ!

破天荒でときに危なっかしいときもあるけど、そのこと自体が魅力であり、他のメンバーもそこに共鳴していく。1話当初からそんな可可の魅力が全開です。

ところで、既存作と比較するとその作品そのものの良さから意識がそれてしまうので (サンシャイン!! 1期のころは分かっていてもついやってしまって後悔しました…笑)、避けたいところではありましたが、役割にどんでん返しがあったのが新鮮だったので、敢えて拾ってみました。

f:id:a16777216:20210908215055p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 1話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かのんは、初手で能力が高く、それとは裏腹にお化けが怖いあたり、リーダーと言うよりは強キャラとして1メンバーになっている感のあるところに魅力がありますね。

溌剌としていて、周りの状況に対するリアクションに遠慮のない所にたいへん惹かれますので、あとがきでもう少しだけ膨らませる予定です。

 

さてしかし、かのんが歌うことが出来るようになる理由が他にあることが後にわかり、私たち視聴者は衝撃を受けることになります。

 

 

しかし、作中の時間軸としては先にすみれの回があるため、立ち寄っておきましょう。改めて見返したとき、すみれの感情が垣間見えてグッと来るシーンがありました。

f:id:a16777216:20210909233401p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 4話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かのん、可可との3人で、投票を募ってセンターを決めるシーンのさなかです。ここですみれは当然のようにセンターを取れるものと思うどころか、「大丈夫」とつぶやいていました。表情には自信が表れていますが、まるで「ダメだったらどうしよう」という不安が表れているかのような独白です。

 

失敗する自由こそが人を強くする。かのんの言った「センターが欲しかったら、奪いに来てよ」は、それを生み出す魔法の言葉です。

何度やってもその場所に立てない、という見方と、挑み続けている最中だ、という見方は、似ているようで全然違いますね。後者は、まだ立てていないがやり続けている「今」を肯定するということ。

挑んでいる今を受け入れたすみれの練習時の姿の、なんと輝かしかったこと。

 

なお、前の記事で『しかめっ面にさせるゲームは成功する』という本を引きつつ少し触れたように、この挑み続ける今を肯定するという姿勢はサンシャイン!! にも通じる部分がありましたね。

a16777216.hatenablog.com

 

かのんが歌ってこれた理由の話題に戻りましょう。

可可との会話などを通じて、少しずつ明らかになってきたのは、千砂都がダンスを頑張ってきているからこそ、かのんも歌を続けてこれたらしいということ。可可と支えあったことがとてつもない力になっただけでなく、さらに千砂都の支えもあって乗り越えられたのが、初めてのステージであったようです。

それは、仮にスクールアイドルを続けられなくなったとしても後悔しないほど、「今の肯定」が出来るような素晴らしい時間。

 

実現できたのは、ステージの上の不安な二人を、千砂都がライトで照らしてくれたため。のみならず、千砂都がその強さを、約束の地とでも言うべきこの場所で見せたため。

f:id:a16777216:20210911235514p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

千砂都は自分のことを弱いと言っていた。でも、自分の強さは、見る人によって変わるもの。かのんにとっては強くてかっこいい千砂都であり、それが挫けそうになるかのんを支え続けてきたはずです。

 

そしてそれを言葉で伝えることの大事さ。誰かが助けになってくれている以上に、自分がそんな誰かの助けになれているとしたら、一体どれほど頑張れるでしょうか。かのんがかつて心を打たれたと千砂都に伝えることは、このような意味があったはずです*2

それともう1つ思うのが、目の前で伝えることと同じくらい、足を使って伝えることって大事だよな、っていうことです。遠いところから時間をかけて駆けつける、そうでなければ伝えられない想いの強さって、ありますよね。

f:id:a16777216:20210912000901p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

スーパースター!! の人物、ここまでのところ4者4様の表情の豊かさを見せています。ここの前後数分の千砂都の表情の移り変わり、大好きです…。

上の絵の直前の食いしばるさまも刺さりますが、このまだ実感の追いついていない、少し安堵もある驚きの表情が、とてもいとおしいです。

 

さて、自分が助けになっていたと分かることで勇気をもらえるのは、かのんにとっても同じこと。この一連の流れを通じていっそう頑張れる理由を得たかのんの力もまた、夏の夜の壇上ではじけることになります。

 

 

暮れていく日。海の美しい時間です。

「ずっと夢見ていた気がする。…こういう日が来ることを」

f:id:a16777216:20210912002158p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

偶然とは重なるもので。自分が最近思ったばかりの言葉とほとんど同じセリフだったために、どきりとさせられました。人は、きっと起こり得ないと思ったことや、そもそも想定もしていなかったこと、だけど大事なことが起こったとき、特に何年もの時を経て起こったときに、このように思うのでしょうか。言い換えれば、私たちが日々を過ごす中で感じうるようなことと通じるところがあるからこそ、いっそう沁みる場面なのかもしれません。

海に沈みゆく日の光が、「長さ」や「遠さ」を経てやってきたこの瞬間と重なって感じられる、幻想的な時間です。

 

私たちは刮目しなければなりません。ダンスを支えてきた千砂都が正式なメンバーとして加入し、かのんと共鳴しあって見せる、この力強い所作を前にして。

f:id:a16777216:20210912003709p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

夏の夕方が夜に変わる時間。そこには、感動のひとときが似合ういっぽうで、羽目を外したお祭り騒ぎも似合います。吹っ切れと、いくつもの意味が重なるこの歌とダンス。これも見事としか、あるいは、「パ〜!」としか言いようがありません。

 

また、歌が問題解決をするか、または問題解決の結果として歌が成就するのもまた、ラブライブ!の醍醐味。それも複数の悩みや問題が一度に解消されるという爽快感が知られていますね。

やるからには本当は千砂都とも一緒にやりたかったかのん。可可も同じ想いを共有していました。

歌詞を完成できずにいたかのん。

振り付けた本人がメンバーにいないことで完成できないチームとしての強さ。

 

これらが特異点のように重なるこの歌、言いも言われぬピースのハマり具合が、シーズン前半の区切りとしても完璧すぎるという感想にはなりますね。

 

そして、歌のかのんとダンスの千砂都、それぞれ一方を尖らせてきた二人が、最終的にに力を合わせて、一人ではなし得ない力を今後も発揮し、大きく羽ばたいていくのだと思います。

最初から何でも出来る人ではない人たち、ショウビジネスとしての点数では評価しにくい人たちが、あるときに、好きなことへの情熱やお互いのシナジーで、突き抜けてくるということ。

これこそが、スクールアイドルという場でのスペクタクルの魅力ではないでしょうか。

f:id:a16777216:20210912011005p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

 

あとがき

 

シリーズの今までの作品もそうであったのですが、スーパースター!! はさらにそれ以上に人物が表情豊かで、かつ自然だというところに魅力を感じたので、最後にその話も少し添えたいと思います。

 

あと、やっぱり一応心の内をあらわにしておきたいのが、未来予報ハレルヤ!のジャケットについてちょっとだけ心配がある点です。この曲は本当に大好きだし、この喜んでいる構図も本当に素晴らしいと思うからこそ、誰もが愛せる曲であって欲しいとせつに思うのです。だからこそ、服が身体にかなり密着した描かれ方が誰かを傷つけないかは、ちょっとだけ不安がありました。あるいは杞憂かもしれませんが。

いつもこうした話を書くのはくどいし申し訳ないとも思うのですが、ラブライブ!が皆から末永く愛されるものであって欲しいからこそ、この場で書かせておいてください。

 

さて、表情の豊かさについては、上で書きましたように、人物ごとに表情豊かさの個性があるところがたまりません。それに、必ずしも「お約束」にハマらないタイミングで意外なほど振れ幅が出るところが、とても自然でリアルを感じるんですよね。本当にいてもおかしくない、こんな人たち、って。

 

6話について言えば、その美味しさに対してかのんが「んん゛っ!?」って反応するこのシーンが素晴らしいです。物事に対して心を動かす感受性の豊かさと、それを表現できるというかのんの魅力が、これまでの回と同様にここでもはっきりと表れます。

f:id:a16777216:20210912141310p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

こうして表情だけ見ると意外とタンパクなので、もしかしたら伊達さんが機転を効かせたものなのかもしれませんが、いずれにしても素晴らしい名演ですね。画に対して声が乗るとき、魂が宿るというのを改めて感じさせられます。

 

なおこの料理のシーン、すみれの歴代トリックスターとしての実力が垣間見れる点も魅力になっていますね。

料理、他校や目上の相手に対する人当たりの良さ。これに4話での蜘蛛のような素早い動きを合わせると、歴代3名の特殊スキルを継承しているつよつよキャラであることが伺われてきます。

 

強いキャラというと、エンディングでは葉月恋が階段の上から登場するという意味でラスボス的なニュアンスになっているのが興味を惹かれるところです*3

f:id:a16777216:20210912142751p:plain

ラブライブ!スーパースター!! 6話/©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

階段を登る描写で登場するかのんは、先にいる恋を追いかけているかのよう。追ったその先にいる恋は、果たしてどんな人物なのか。

考えてみれば「学校アイドル部」という表示は随分前からあったもののようで、恋の母や理事長が何か関係してもおかしくないと思わされます。次の展開がこれまたとても楽しみですね。

 

それではここまでありがとうございました!

まだまだこのようなご時世ではありますが、アニメ本編や諸公演を前にした一人の観客としてまたお合いしましょう。

*1:かげきしょうじょ!! の推しポイントを挙げておくと、まず音響のかたが我々のよく知る長崎行男さんです。そして内容としては、関係性のあり方がたまりません…!人との関係が、何かをやる理由になるという意味では、スーパースター!! と響き合う所があり、思わず心を奪われます。千本木さんや花守さんたちの演技が見事だし、主役二人以外の活躍するいわゆる誰々回も豊富にあるのも魅力です。そのうちの1人は歌がテーマになっていて、スーパースター!! を理解する上で是非とも押さえておきたいアニメというところです。

*2:考えたらここの作り込みは見事だなと思います。私たち視聴者にとってはかのんの伏線が回収されるシーンなのですが、千砂都目線では大会で頑張れる理由ができるシーンになっているわけですよね。見返してようやく気づくような情報の厚みに驚かされます。

*3:エンディングの描写も素晴らしくて1人最低一言ずつ言及したい気持ちさえありますが、長くなりますのでまたの機会に。