こんにちは。センケイです。
スクスタ20章は賛否はともあれ、かなりのインパクトを残したと思います。アンビバレントな感情が心に刻まれたのは、私だけではないでしょう。
今回は敢えて、2つの理由から、このテーマに踏み込もうと思います。
第一に、奇しくもアニメと同じ日に受け取っただけに、スクスタを心のどこかにうまく位置づけなければ、先に進めない気がしたため。
そして第二に、よくよく見つめ直してみれば、そこに確かなエモさがあると気づいたためです。
今回もいつものように、最初に3つの道具だけ準備して、始めて行きましょう。
なお、最初に表明しておくと私の読み方は、2つの時空は、同じ人物たちの「If」、あったかもしれない別の人生、という読み方です。
※以下の内容は、アニガサキ5話、およびスクスタ20章の、重大なネタバレを含みます。
あるべき愛、あるべき試行
1つめと2つめは、愛についてです。
1つめは、愛≒親密圏は、とくに平等な愛は、崩れうるから尊いということ*1。
どんなことがあっても崩れない愛は、ときに縛るものにもなります。特に、どちらかがどちらかを権力で縛るようであれば、そこには不平等が生まれます。
もちろん個人の倫理観としては、約束を破るようなことをすべきとは思いません。
しかし、うすぼんやりと「いつか離れるかもしれない」ということがあってこそ、愛を「続ける」ことが、能動的な営みになるわけです。
愛は状態ではなく、やめてしまえばなくなるものであり、「し続ける」ものだということです。
2つめは、「変わらないあなた」を求めては危険だということ。
特に、2人、あるいは皆が「同じ」になろうとするとき、いっそう危険になるようです*2。
まず、先に述べたように、もし同じ、変わらないものを求めるなら、そこには束縛があります。
「あなたは◯◯だから好き。」とタグをつけること。これは、そうでなければ嫌いになるかもしれない、という宣言にもなってしまうのです。
逆に、違いを許すのであれば、そこにはルーチンにはならない新しい組み合わせがあり、特別な何かを作る力が生まれるでしょう。
社会学を離れて文化人類学の言葉を借りるなら、「ラインを描く」関係と言ってもいいでしょう*3。
あなたの、「世界との関わり」方を受け入れる人。そんな人との関わりが、次の自己を作ってくれるに違いありません。このことを、『ダイエット幻想』や『急に具合が悪くなる』は、「ラインを描く」という言葉で表しているのです。
3つめは、少し重なる部分もありますが、新しいことを試し続けるのが大事だということ。
自分が専門としている機械学習の言葉を借りるなら、「強化学習」的なふるまいです。
ざっくり言えば、新しいことを試し、結果の良かったものを選ぶ。これを常に続けていくこと。Aqours の言葉で言うなら、「だめなら また次の チャンスを つかみに」*4というわけです*5。
あったかもしれない未来に飛び込む勇気
愛は、親密圏は、続けなければ消えてしまうもの。3話の1つめの感想で書きましたように、ニジガクのみんなは、結びつきの一部を、そんな親密圏に頼り始めました。
しかしそれは、結びつきの質を変えてしまうということ。
別の未来では、ばらばらになるかもしれない。
グローバル化する社会において、別のもっといい機会が現れたら、あなたへの「好き」を続けることが難しくなるかもしれない。
そんな可能性があったからこそ、以下のみんなの決断はますます、勇気あるものと言えるのではないでしょうか。
機械的な結びつきを越えて、「自分なりの一番を、それぞれ叶える」ことを目指した高咲侑、中須かすみ、そして上原歩夢。
「大好きを貫」くことに一歩を踏み出した優木せつ菜。
そして、彼女たちを受け入れ、その選択をすることを支えたエマ・ヴェルデ、近江彼方、桜坂しずくの「それは嫌だよ!」。
彼女たちの一歩は、ばらばらになるリスクを背負うからこそ、勇気のあるものだった。
そして、だからこそ、それでもなお好きで居続けようとすることは、芯の強い、覚悟のあることなのです。だからこそ、人の好きと好きを繋げる努力を見せる宮下愛の気配り、「笑顔でいられ」ることを支えるエマの情もまた、いっそう輝きを放って見えるのです。
挑戦するあなたへの敬意
5話で示され始めたように、エマの愛情は、「変わらない」ことを矯正しません。少しだけ先取りするならエマは、「どんな果林ちゃんでも」と、変わっていくことを許すそぶりを見せます。「ラインを描」こうと言わんばかりに。
スクスタの話題に戻りましょう。
20章では、「自分なりの一番を、それぞれ叶える」ための別の大いなる手法が現れ、同好会はパニックに陥りました。
しかしそれでもなお、同好会の多くのメンバーはお互い、相手の選択を尊重し合いました。「同じ」ではなくても、あなたを嫌いにはならない。
そんな中でかすみは、選択を異にするしずくのことを、嫌おうとしていた。もちろん、かすみの反応は納得のできるもので、決して責められるものではありません。
このとき、なんとしずくは、かすみが自分を嫌おうとしたにもかからわず、かすみへの敬意を忘れなかったのです。
かすみのくじけない意志も素晴らしく、また、嫌われてなおそれをたっとぶことが出来るしずくの心の強さも、計り知れないものがあります。
立場は違ってもあなたとラインを描きたい、そう願うしずく。それが少なくとも今は叶わないというしずくの苦しみもまた、計り知れないものでしょう。そんなしずくの一すじの願いを見て、私は、目頭が熱くなるのを止めることができませんでした。
それに、相手とともに伸び合うためにこそ、未だ試したことのない挑戦は、欠かせない意味を持つでしょう。
誤解を生みさえしたものの、いや、真意は完全に明らかではありませんが、世界との関わりからお互いを強め合おうとしたであろう朝香果林、愛、三船栞子、そしてしずくの決断もまた、意味のある勇気に思えます。
目まぐるしく変わるこの現代において、今日が始まりの日であり、新しいことをし続けることこそが、自分たちを強くする。
そして、再び『ダイエット幻想』と『急に具合が悪くなる』を引用するなら、「世界を抜けてラインを描け!」
変わっていくあなたを尊重できることは素晴らしい。
そして、変わっていく可能性があるからこそ、もしもアニガサキで変わらない間柄を作れたならば、それはますます尊いものだと言えるでしょう。その努力も、その結果も。
あとがき
スクスタ、やっぱり心に刺さってくるものがあったので、勢いでこちらの感想を書くことにしました。
アニメの邪魔になるばかりか、むしろアニメの尊さを強める面さえあるのではないか。そう思えてきたから、やはり書かざるを得ないと思ったのです。
もしもの世界のリスクがあるから、不断の努力が、続く間柄が尊い。そんな一面を見出して頂けたとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
それでは、今回もありがとうございました!
私たちもまた、ニジガクの皆の勇気に習って、ラインを描けるような生き方をしていきたいですね。
*2:『コモンウェルス (上)』。
*3:『ダイエット幻想』や、あとこれは少し重い本なので参考文献に挙げるか迷いましたが素晴らしい本なので言っておくと、『急に具合が悪くなる』、より。
*4:『勇気はどこに?君の胸に!』より。
*5:以前の記事のとある章で、 Aqours の姿勢の強化学習みを書いたこともあります。