音楽が物語になるなかで私たちが受け取ったものは アニガサキ13話感想

こんにちは、センケイです。

 

いよいよ第13話。次々とメンバーのソロライブが繰り広げられていきましたね。

個人的にはそんな A パートを、今回は全部やり尽くしたあとで結果だけ見る回というか、エンドロールというか、そういうものとして見ていました。

 

この理由から個人的には、大きな課題が立ちはだかるかどうかは、あまり気にしていなかったのです。他にも理由はあるのですが、この気持ちで見ていたからか、雨があっさりとあがっていくことに特に不満はなかったのですよね。

雨にもし意志があるなら、それは物語に対して無責任でドライな態度だったのかもしれない。でも雨に意志はない。この世界の構造は、状況の意志によってではなく、高咲侑の意志でによって作らているのだろうから。

 

そのような結果発表回なのだとしたら、私の感想でもなるべく素朴な受け取りをしつつ、最後にそのストーリーの意味についてだけ少し考えて、まとめることにしましょう。

 

 

 

フェス、参加するものとしての音楽

 

フェスの始まる予感が少しずつ満ちていく A パート。個人的にはそれを受けて、自分がフェスに参加するかのような気持ちで、ボルテージが高まっていきました。

 

だから、青空に向かって颯爽と踏み出していく上原歩夢を見た時点で、もう勝ち回なんですよね。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

今までどちらかと言えば内向きに気持ちを置いていた歩夢が、もう今では外に気持ちを向けていて、それでいて内に向かうものも無くしてはいません。

一回りも二回りも大きくなった歩夢や皆の勇姿が見れるっていうのは、最高のご褒美ですよね。

 

 

さて、一度エンドロールとして楽しむ回だという気持ちになってくると、ますます、音楽に参加したい気持ちへといざなわれていきます。

 

そもそもフェスっていう音楽の形態は、単に聴くだけではなく参加もできる形態の、尖兵みたいなものですよね。

時期的にはそれを追うかたちで、音楽ゲームやその他様々な、参加できる音楽の形態が生まれてきて*1

 

フェスではタオル曲でタオルを回すこともできるし、

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

何となく聴きながらうたた寝をすることだってできるわけです*2

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

自由なかたちで参加できるフェス。なにか食べたり、物販を回ったり、めいめい好きな服装で参加したりすることもその中に含まれてくるでしょう。そうした音楽への関わり方の多様さ、音楽や出演者との相互作用の仕方の多様さが、フェスというフォーマットを通じて次々と描かれていきます。

 

天王寺璃奈の場合は、対戦ゲームという、さらに一歩踏み込んだインタラクティヴ性を提供します。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

これにより、これまで以上にいっそう、音楽は「関わるものだ」ということが意識されます。

 

これに拍車をかけるかたちで、参加者を巻き込んでダンスをするエマ・ヴェルデ。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

曲順とは前後しますが、朝香果林の場合は、「やりたいと思ったときから、きっともう始まっている」という言葉によって、「始ま」るということを脈々と受け継ぐかたちで参加者を巻き込みます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

ラブライブ!無印やラブライブ!サンシャイン!! では、その物語のなかで、輝きあるいは羽根が脈々と受け継がれてきました*3

このように「受け継ぐ」こともまた、音楽へのひとつの関わり方なのでしょう。

 

 

さて、ここまでのシークエンスでは、音楽への関わりが強調され、視聴者の私たちとしては、あたかも音楽へ関わるものとしての視聴体験が提供されているかのようでした。まるでフェスそのものへの参加のように。

 

ここからは、音楽に物語が与えられていきます。

 

寸劇、物語としての音楽

 

世に無料有料問わず音楽が反乱し、ザッピング消費という言葉も出てくる昨今。最初の数十秒ほどの印象が勝負、とさえ言われたりもします*4

そのような現代においては、アルバム全体を通じて一つの物語を作ることをしても、それを認識してもらうことはなかなかハードルが高いでしょう。

 

そんな折、あたかもこれに対抗するようにアイドルマスターラブライブ!が取ってきた手法というのが、作中に音楽を埋め込むという方法です。

このようなとき、楽曲はゲームやアニメのなかで文脈を伴い、再びストーリー性を帯びたものとして蘇ってきます。

 

アニガサキでは、13話全体を通じて意味を帯びる曲もあれば、1話の中で意味を帯びる曲もあります。ここではさらにその劇中の劇として、音楽に物語が加えられる一幕がメタ的に遂行されます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

しかもここでは、課題が発生することにも、解決に向かうことにもそれぞれ楽曲が与えられます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

しかし、物語を伴うかどうかによらず、楽曲それ自体もまた価値のあるコンテンツ。世界が救われ?課題が解決すると、再び演奏や歌唱がフォーカスされます。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

音楽だけではなく、物語がある。そして、物語だけでなく、音楽がある。それこそが、ラブライブ!であり、アニガサキであり、そしてこの13話であるのでしょう。

 

そう、ここまで13話見てきたアニガサキ自体、音楽に物語が与えられるものでした。

「夢がここからはじまるよ」という楽曲の物語はもちろん、「私ね、音楽やってみたいんだ」という物語が。

 

拾われる、ひとりの物語

 

大きな物語の終焉が叫ばれて、久しい時間が経ちました。

ラブライブ!シリーズは代々、一見 大きな課題へ立ち向かう物語に見えてその実、人物たちの個別の物語へとクローズアップしていく点が奥ゆかしい物語であったと思います。

アニガサキは、そのベクトルのほうへ更に尖らせた作品ではないでしょうか。

 

アニガサキは第3話時点ですでに「ラブライブなんて出なくていい!」とし、大きな物語へと向かわないほうが「良い」のだと決着をつけました。

大会の優勝や廃校の阻止とも別のところで物語を見いだしてきたシリーズの血を、受け継ぐばかりかさらに濃くしたかのように、一人ひとりの小さな物語を大事にする道を歩んできたのです。

 

しかしその一つひとつの物語が、たとえ世界の構造と比べて小さいものであっても、それでも大切なものには違いないということは、今まで見てきたとおりです。

 

世界はおろか、天候のひとつだって変えることは難しいかもしれない。それでも、やり方を探してみれば、何かしら「良い」感じを見いだせるのかもしれない。

そして、見いだせようと見いだせまいと、探す過程を頑張ること自体もきっと意味のあることとして残ることでしょう。

雨に対して、というよりは、今までの物語全体に対してですが、悩みながらもずっと頑張ってきた歩夢は、今や威風堂々と歩くようになったその姿勢だけで、すでにもう侑の心を動かしています。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

フェスティバルはそれ自体大きな夢のようであったけれども、その趣旨は、参加者一人ひとりの夢を応援することにあったのでした。

イベントは確かにそれ自体夢になるけれども、イベントで行きていくことを選べるのはきっとほんの一握りの人だけ。多くの人は、自分がこの先どういう道を歩んでいくのかという夢を、また別に作らなければなりません。

だから、大きな何かをしたということで終わらず、そういう一つひとつの夢を応援する歌が芽生えてくることは、とても意義深いことに思えるのです。

 

そして9人は、その歌を多くの「あなた」のために歌いつつも、真意としては侑のために歌いました。音楽を関わりを持つことを夢見て、その物語を選んだ侑のために。

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

ただひとりの夢。それでも、本人にとっては、世界のなかで大きなウェイトを占めるもの。

 

たとえとても個人的なことであっても、それは十分に物語だし、それに一人ぼっちで立ち向かうのではなく、人と一緒に歩んでいけるものでもある。この歌からは、そのようなメッセージを感じます。

 

そしてそれは、夢を応援しあってきた時間のたどり着いた先でもありました。

自分が信じてやってきたことが上手く行かないときもあるかもしれないけど、上手くいくときには、自分が気づかないほど誰かの役に立っていたりしていて。それが巡り巡って、「あなたには、私がいる」という言葉で跳ね返してもらえるとき、それは一体どれほど嬉しいことでしょうか。

 

お互いにそれぞれ「好き」があって、それを応援しあう、その響き合う声はたとえ小さなものであっても、人と営んでいく物語、ひとりじゃない物語になっていく。

そのような物語と共鳴する「音楽」は、13話を飾るのに似つかわしいものだったのではないでしょうか。

 

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出典: ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 13話/©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

受け取ることのできるメッセージ

 

この物語を受けて、私たちが何を受け取れるかについても、考えてみましょう。

 

世界はあまりに人口つまり思惑が多く、複雑で、そこには夥しい数の対立や交渉があります。

そんななかで、世界の構造を変えるような夢を持つことは、不可能だと言ってもいいかもしれません。

極端な話、大きな国家の大統領になったとて、議会の力、民衆の目の力、諸外国の力と、さまざまな交渉のなかに佇まうことになるでしょうから、思ったように世界の構造を変えるのはとても困難でしょう。

 

加えて今の時代は、自分が何をやりたいのか、何者なのかを見出すことさえ難しくあります

 

しかし難しいということは、逆に言えば、自分が何をやりたいのか見つけることは、それ自体 価値を持っているとも言えるでしょう。

 

混沌としたこの現代社会において、ひとりのささやかな夢を持つことはとても大切で、それは「ひとりだけど、ひとりじゃない!」

 

そして、持つことのできたささやかな夢で何かをやり続けたとき、結果的には、世界にほんの少し爪跡を残すことだってできるかもしれません*5

雨をやませることはできなくても、それでも何かをやり続けることは、また別のものをもたらすかもしれません。

 

 

ここまで追いかけてきた物語は、そんなふうに夢を持つことを、支えてくれるものでした。

個人的には、何かに躓いたときや、ためらって一歩を踏み出せないとき、きっとまたこの物語がささやきかけてきて、自分を支えてくれることでしょう。

 

あとがき

 

あっというまに3ヶ月が過ぎ去り、2期のお知らせが今のところ無いまま、最終話を迎えてしまいました。

名残惜しくはありますが、不思議と、寂しくない気もします。

夢や、やってみたいことを支えてくれる、そういうラストだったからでしょうか。

 

 

何となく、主人公である侑の視点で物語を見ようとしてしまい、侑の感情を想像することはあまりできないでしまったな、と思います。どうか、そういうスタイルの記事なのだなとご寛恕頂けたらと。

そしてそんな3ヶ月を過ごすうちに、この物語の他に理由は色々あるんですが、自分もまた「音楽やってみたい」(そういう意味ではやってみないですけど) という気持ちになり、ついに電子楽器を買うなどもしてしまいました*6

 

なんかそういう、やってみたいことを支えてくれるようなラストだったと思うのですよね。

 

だから、年も代わったこの2021年、こんな時代ではあるけど、やりたいことに向かってもっと頑張りたいというか、妥協していないかしらと自問自答しつつ、やっていきたいなという風にも思ったのでした。

 

何かをやり続けることは、きっと何かに繋がるかもしれないし、SILENT SIREN の「HERO」の言葉を借りるなら「誰もが誰かのHERO」だから、それがいつか誰かの役に立つのかもしれない。ほのかにそんなことを信じながら、やっていきたいですよね。

 

それでは今回も、ありがとうございました!

またそんな今年のどこかで、お会いしましょう。

*1:興味深いことに、現在の4大ロックフェスティバルのなかで最も早かった FUJI ROCK FESTIVAL の初開催と、初代 beatmania のリリースが、いずれも 1997 年なんですよね。

*2:大型のロックフェスティバルではテントを設置できる場所もあり、うたた寝をする自由が大きいです。

*3:以前の記事で書きましたように、「輝き」がまた次の「輝き」を生むというかたちで、媒介するもの (ここでは「輝き」が媒介物) が連鎖的に生み出されていく場合、それが1つのシステムを構成している、と解釈できます。

*4:オルタナティブロックの社会学』を参照しました。

*5:爪跡という表現は、GO!GO!7188 の楽曲「小さな爪跡」に対するオマージュです。

*6:なお、集合住宅で電子ドラムを置くなら、やはり「ディスクふにゃふにゃシステム」が必須なようです。これについてはまたいずれ。